「異国の風を感じた伯父の訪問」by id:offkey


ブラジルに住んでいる伯父が我が家に初めてやってきたのは、私が幼稚園の頃だったと思います。
思います、というのはそのときの記憶が残ってないからなのです。
アルバムを見ると、家の前で伯父と私たち家族が写ってる写真があって、なぜか私は大泣きしていました。でも伯父が怖かったわけではなさそうで、というのも、市内の大きな公園へいって伯父と一緒に写っている写真はにこにこしていたからです。
地球の裏側に住んでいる伯父が再びやってきたのは小学校も高学年になったころでしょうか。
この時の記憶は残っています。
外国とは全然縁のない我が家に訪れた伯父は私の目には珍しいお土産をたくさん持ってきました。
たとえば、ビンに砂を詰めて絵を描いた置物。これはどうやって作るんだろうとしばし見入ったものです。
また、青く光る羽根をもった美しい蝶を真ん中にかざり、貝殻で額縁を作った壁掛け。日本では見ることのない色合いの蝶に異国の憧れが掻き立てられます。
それから、両側を封印した木の切れ端。
封印をはがして植木鉢に植えると葉っぱが出てくるというのでこれもまた不思議な心地がしたものです。外国語で書かれた名札が読めなくて、伯父に読んでもらうと、「デラッセイナと書いてあるね」といいました。
ラッセイナ。
その木はバナナかとうもろこしのように鮮やかな緑の大きな葉をつけました。
後年、それがドラセナの一種だと知り、ああ、だからデラッセイナなんだなと納得したり。
それからオリーブオイル。
このオイルはバージンオイルではなかったので、クセがあり、当時の私たち家族にはちょっと食べられず、揚げ物に混ぜて使ってたりしたのを懐かしく思い出します。
伯父の奥さん、すなわち私からみると伯母ですが、彼女はとても社交的で話の場を一番盛り上げてくれました。
話している内容はおもに父の兄弟のことだったりするのですが、ブラジルで出会った人の話をすることもあって、そんな話を横でぼんやり聞いていました。
そして、ブラジルってどんなところなんだろうなあと想像したり。
伯父さん夫婦は異国の風を運んできてくれたのでした。
さすがに遠い国なので、その後は我が家にやってくることはなかったのですが、伯母が毎年クリスマスカードを送ってくれてそこにも異国の匂いがします。
伯父の訃報を聞いたのは奇しくも私が退院した日でした。
クリスチャンの伯父にあてはめるべきことではないかもしれませんが、今年十三回忌を迎えます。


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