★(一ツ星)

「狭いスペースも有効に生かして空間を彩る〈細長ファブリックパネル〉」
by id:momokuri3


またまた知り合いのイエの実例で恐縮ですが、細長い板に様々な布を貼り付けたファブリックパネルを使って、とてもセンスよくイエの空間を彩っている人がいます。


使う板は、幅十数cmの杉板です。建築材として最も一般的な物ですから、安価に入手することができますね。ホームセンターに行けば表面がプレーナがけされてツルツルに仕上げられている物が売られていますが、この人は表面がザラザラな状態の荒板を好んでいます。布を貼り付ける都合上、ちょっとサンドペーパーで擦って表面を整えますが、あまり深追いして磨かない方が木らしくていいと言っています。


その板に、一回り小さく裂いた布を貼り付けます。板の表面を完全に覆わず、余白というか、板の表面がわずかに露出するようにしているところが特徴的です。左右の余白は狭く、上下を広く取っていく、掛け軸のようなバランスもいい雰囲気。わざと余白を残すと、左右の間隔を揃えたり、板の縁との平行をきっちりとっていくなどの手間が掛かりますが、この人は布をハサミで切らずに手で裂いていますので、布の周囲に生まれる自然なほつれが、そうしたずれを目立たせにくくしています。


布の貼り込みに使う接着剤はごく普通の白い木工用ボンドです。杉板は目を止めておかないと樹脂やアクが染み出してきて布を汚すことがありますが、ボンドの皮膜がバリアになるようで、そうした汚れは出ていないようです。ただし、ボンドは布の表面に染み出してテカリを作りやすいので、生乾きのうちによく水拭きして落としておくのがコツだとか。どうしても残ってしまうテカリは、乾燥後にブラシで擦って消していくそうです。こういうやり方で対処できる質の布を使っていくのも、美しく仕上げるためのコツの一つでしょうね。木綿や麻などの素朴な反物は、こうした処理に向くようです。


こうして作った縦長ファブリックパネルを、窓に挟まれた狭い壁面などに下げて飾ります。広さのある壁面にも段差を付けながら複数並べて配置。空間が布のモザイクで彩られます。一部のパネルはライティングレールに配置されたレフランプでライトアップできるようにもなっていて、主照明を落としてその明かりだけ部屋を照らすようにすると、布地から乱反射された光が空間を彩って、これまた面白い効果が醸し出されます。


この細長ファブリックパネルは、古着をほどいて水洗いし、薄く糊を付けて板に張り付けて布を再生する、昔ながらの「洗い張り」の風景からインスパイアされたものとのことですが、時々掛け替えられる様々なパネルは、まるでイエがミュージアムになったような楽しさも醸し出しています。


使う布はあくまで端切れ。中途半端な大きさの布が複数組み合わさって貼り込まれているパネルもあり、ほとんどお金をかけていないところもすばらしい。有り合わせの物から思わぬ美の組み合わせが生まれてくる。そういう自作の良さがとてもよく現れた作品群になっています。


最後にご本人の言葉を紹介しておきます。
「インテリアに金をかけない素っ気ない家だからこそこういうやり方で壁が遊べる」
なかなか名言だと思います。


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ミシュランコメント

ファブリックパネルといっても、これはまったく新しいカタチのオリジナル・アイデア。その方のイエの雰囲気にもぴったりなのだろうと想像するのも楽しかったです! タテに細長い形状で壁面にたくさんディスプレイする方法もさることながら、木の板を布で覆いきってしまわずに木肌と端布の風合いを両方活かすパネル作りの方法は目からウロコでした。「素っ気ない家だからこそ」と言われながらも、実はとても巧みなインテリアの技。端切れを愛しむまなざしもきっと、美しいものを生み出すみなもとですよね。さまざまなアイデアの要素が詰まった素晴らしいアイデアとレポートに、大きなを贈ります!