★★(二ツ星)

「琴や尺八・三味線などの音で和を楽しむ」by id:TomCat


箏曲「春の海」(宮城道雄作曲)が流れてくると、季節にかかわらずお正月気分に浸ってしまう人は少なくないと思います。このように、音で呼び起こされるイメージというのには、とても鮮やかなものがあると思うのです。「春の海」に限らず日本の伝統的音楽の名曲は様々ありますから、それらを暮らしの中のBGMに取り入れてみませんか。琴や尺八、三味線などの音色が流れてくると、もうそれだけで、どんな場所にも和の空間が広がります。


たとえば雅なお琴の音色を聞きながら、お気に入りの和菓子でおいしいお茶。考えただけでも和むと思いませんか。さらにテーブル上に季節の花を和風に飾ったりすると、いつものリビングが趣のある和空間に早変わりです。お花は、小さな剣山と、ちょっと深めの陶器のお皿などを組み合わせて飾りましょう。生けたお花を乗せる花台の代わりには、和風の鍋敷きなどが使えます。


三味線もいいですね。夜、部屋の明かりを落として、しっとりとした三味線の音色を聞きながら月を見上げる、なんていかがですか。凍てつく夜空の冴え冴えとした月を眺めていると、「おまいさん、一本つけましたよ」なんて恋女房の声。「いよっ、嬉しいねえ、おめェもここに来て一緒にどうでェ」。こんな時は、照明をフロア直置きの小さなスタンド一つにしてみましょう。これが行灯の代わり。三味線の音に合わせて、「わしとおまえは羽織の紐よ 固く結んで胸に置く」なんて都々逸の一つも口ずさんでみたくなるような、粋な晩酌が楽しめます。


こういう和空間の演出に使える音楽を色々ストックしておくと、お正月や雛祭りなどの伝統行事はもちろん、和風のホームパーティーなど、様々な場面で活用していけますね。ご近所様にご迷惑にならない程度の音量で庭にも聞こえるように鳴らしてやると、夏の夕涼みなんかもいい雰囲気。春秋のうららかな日には縁台に緋色の毛氈でも掛けて、お庭でプチ野点なども楽しんでみましょう。お抹茶と、ちょっと上品なお菓子の用意があればそれだけでお友達が呼べる、気軽な和のガーデンパーティーです。


さて、和楽器が奏でる音色は、もちろん普通の音楽と同じように鑑賞してもよいのですが、ここでもうひとつ、ちょっと目先を変えた鳴らし方を提案してみたいと思います。それは、離れた部屋で鳴らすという方法です。イメージとしては、箏曲を鳴らすなら、たとえば源義経にまつわる浄瑠璃姫伝説のような感じです。それはこんな物語。


身分を隠してとある長者の家に一夜の宿を借りた若き義経は、夜の庭を散策していました。すると、どこからともなく聞こえてくる琴の音。はて、誰が・・・・。月明かりの下で目をこらすと、美しい姫が琴を奏でていたのでした。義経は笛の名手です。愛用の笛を取り出し、その琴の音に合わせて吹きはじめます。ここから、義経と姫の、美しくも儚い恋物語が始まっていくのでした。


なんていうシーンも思い浮かんでしまう、とても素敵な時間が楽しめますよ。音源の位置を離して、部屋というアコースティックな空間を通して流れてくる音に耳を傾ける。この風情もまた格別です。音楽がその存在を主張しすぎない、環境の一部として漂ってくるような聴き方もまた、素敵な和みのひとときを演出してくれることでしょう。


CDを探す時は、「邦楽」ではなく「純邦楽」のカテゴリで探してください(CDショップで言う邦楽は、ほぼJ-POPとイコールです)。探してみると、意外にたくさんのCDがリリースされています。日本の伝統音楽にもそれは多彩なジャンルがありますから、とりあえずは安価なレンタルを利用して、色々聴いてみるといいですね。とにかく数を多く聴いて、お気に入りの曲を見つけ出してみてください。図書館にも貸し出し可能なCDが資料として置いてあると思いますので、ちょっと覗いてみましょう。


また、テレビではNHK教育、ラジオではNHK-FMで、様々な日本の伝統音楽を扱った番組がありますので、そういう放送の利用もお勧めです。毎日何かしらの「純邦楽」番組がありますから、今まであまり馴染みがなかった人も、これを機会にぜひ。音楽への理解を通じて心の中の「和」を育んでいくのも素敵なことだと思います。
http://www.nhk.or.jp/koten/bangumi.html


色々な曲をコレクションして、暮らしの中の様々なシーンに和の音楽を生かしていきましょう。今夜の私は、バスルームの隣の脱衣室で新内でも流しましょうか。今夜は長湯になりそうです。


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★★ ミシュランコメント

お琴や三味線、尺八の音。考えてみると、日本文化のなかでもなかなか身近で触れることがなくなったものですよね。そのたおやかな音色や旋律も、よほど詳しい人が身近にいないかぎりイエで耳にすることもない。けれどそれを、お茶の時間やお花を活けるひとときのおともにしたり、お正月や雛祭りといった日本の季節行事のなかにとり入れてみるという気軽な発想。これなら少しずつ音源を探してきてできそう、と思わせてくれる素晴らしいアイデア★★贈呈です! ご紹介くださったラジオの「純邦楽」番組をまず聴いてみるのもよさそうですよね。そして、「バスルームの隣の脱衣室で新内でも」なんて、とっても風流な時間を楽しめるようになったら本当に素敵です!