★(一ツ星)

「香りで楽しむ日本の心」by id:SweetJelly


香りを楽しむ文化は洋の東西を問わず存在しますが、日本の伝統文化では、香木の香りを楽しむことがその中心です。しかもそれを煙を出さないように慎重にくゆらしながら、立ち上る香りを楽しむのです。その香りを感じることを、日本では「香を聞く」と表現します。この繊細な香りの文化は、華道や茶道とほぼ同じ室町時代に、香道として大成されていきました。この日本独自の美意識によって育まれてきた香りを、現代生活にも生かしていきませんか。


香木を本格的に香らせるには、専用の炭を熱源にして灰で温度調節をするという香炉が用いられますから、炭を熾したり灰を整えたりと、かなり手間がかかります。また、上手に焚けるようになるには少しの慣れも必要です。でも最近はいい物があるのです。


たとえば蝋燭を熱源にした香炉。蝋燭に火を付けて、上に香木を乗せるお皿をかぶせれば、それだけで手軽に、平安時代の姫君も楽しんでいたであろう香木の香りが楽しめます。香木は、くゆらす温度が大切ですが、それは蝋燭と香木を乗せたお皿との距離で調節します。蝋燭ですから燃えていけば短くなって温度が一定しませんが、香道の聞香(もんこう)のような掌の香炉からほのかに立ち上る香りを直接楽しむデリケートな焚き方ならいざ知らず、室内に香らせる空薫(そらだき)なら、こんな簡易な方法でも結構楽しめます。欠点は、蝋燭の燃焼の匂いが混ざってしまうこと。特に火を消した時の匂いは目立ちますから、消火は室外で行うようにいたしましょう。


さらに簡易で欠点も少ない現代的な香炉として、電気を熱源に使った物もあります。これは温度調節もしやすいですし、熱源の匂いもありませんから、とても簡単に香木の香りが楽しめます。私が持っているのは、伝統的な香炉と同じように銀葉(雲母の薄片)を乗せて使用する物なので、香り方もなかなか本格的です。欠点は、ちょっと価格が高いことと、熱源が地球温暖化につながるエネルギーに依存してしまう点。


伝統的な香炉は熱源が炭ですし、蝋燭の香炉も木蝋など植物由来原料の蝋燭を使えば、どちらも二酸化炭素の発生と固定の均衡を崩しません。が、電気ではそうはいきませんね。些細な排出とはいえ、やはり四季の自然の美しさを尊んできた和の心を楽しもうとする時に、それに逆行する二酸化炭素の排出は胸が痛みます。電気香炉は、日頃から省エネに努めて、それでお金と二酸化炭素排出量を節約して買ってください。こういう自然環境を尊ぶ配慮も、和の心のひとつだと思います。


さらにお香と環境について書いておくと、上質な香木として珍重された伽羅(きゃら)は、今はワシントン条約希少品目第二種に指定され、容易には輸出入が出来なくなっています。植物その物が絶滅の危機にあるということではないと思いますが、お香のお店のサイトにこんな説明がありました。
http://www.yoshihashi.co.jp/shop/kotoba/soboku/soboku.html#san

沈香のとれる産地はベトナムカンボジアインドネシア等です。
沈香のある場所は、ジャングル。しかも戦争があり地雷が沢山。
よって人が入っていける場所にはもう沈香はありません。
しかも、木にバクテリアが作用して樹脂化したものなので人工的に作る事はできません。
ですから、今現在使用しているものがなくなればもう沈香はありません。
沈香のなかでも伽羅は最良のものです。だからとても高価なのです。


どうやら長く続いたベトナム戦争の傷跡が、今も尾を引いているようです。


日本の伝統の香りとはいえ、その原料は遥か昔から、海を渡って日本にもたらされてきた物でした。その貴重な香木を大切に大切に、少しずつ少しずつ使って香りを楽しんできたのが、千数百年にわたって日本で育まれてきた香の文化だったのです。


今私達が容易に入手できる香木も、やはり産地の多くは東南アジア諸国です。香は心を落ち着け、安らげてくれますが、その香を聞く時には、戦争なんて必要のない世界の安らぎと安定も願っていきたいものですね。


ちなみに香の楽しみを道にまで高めた香道も、足利将軍家の近臣であった志野宗信(香道および茶道の志野流初代)が、戦乱による世相の悪化を憂い、将軍に香や茶や連歌などをすすめ、武家政治の中にも温雅な思想を打ち立てようとしたことに始まると言われています。香はただ香りを楽しむだけでなく、世の中の平和安定を願う心の文化でもあったのです。
http://www.okou.or.jp/manabi.html


そうしたことも踏まえながら、繊細な和の香りの美を、まずは手軽な道具で楽しんでみてください。忙しさに紛れて温雅さを忘れがちな毎日の中に和の香り。煙を立てて焚くお線香や洋風のアロマオイルとはまた違った伝統の香りが、ゆったりとしたくつろぎをもたらし、心も体も癒してくれると思います。


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ミシュランコメント

香木や「香道」のことをこんなにつぶさに教えてくださったのは初めてではなかったでしょうか。その歴史や、日本人独自の香りの楽しみ方や五感の繊細さを知りながら、イエでも少しだけあらたまった気持ちで香りとくつろぎの時間を過ごすことができるんだと、とても興味を惹かれました! 日常的なアロマもいいけれど、手軽な道具で香木を焚いて、雅な気分とともに心静かに過ごしてみる。香炉などの道具も、季節によって選んでみたり、普段もそこにあるだけで心を風情で和ませてくれる素敵なアイテムになりそう。日本の伝統文化を学びながらすぐにでも暮らしにとり入れることができる香り豊かなメッセージに、大きなを贈呈します!