「山椒の葉の佃煮」by id:CandyPot


正確には佃煮とちょっと作り方が違いますが、わが家のやり方をご紹介しますね。材料は、山椒の葉、お醤油、そして味醂です。


1.山椒の葉を摘み、固い軸を取り除きます。
2.大きなお鍋に湯を沸かし、山椒の葉をどばっと入れて、再び沸き立ってきたらすぐにザルに上げて冷水に放ちます。この間1〜2分。
3.そのまま水に20〜30分さらしておきます。
4.お鍋に山椒の葉を入れ、醤油2・味醂1の割合でふりかけながら、炒り煮のようにしていきます。熱とお醤油の塩分でどんどん水分が出てきますから、焦がさない程度に水分を飛ばしつつ、味見をしながらお醤油や味醂を足していきます。山椒は香りが強いので、味は濃く付けてだいじょうぶ。葉の量によってお醤油と味醂の量も違いますが、結構たくさん使います。
5.かさが最初の1/4くらいになったらできあがりです。


この佃煮に使う山椒は、子どものころに住んでいた家の庭にあったものでした。毎年アゲハチョウの幼虫もやってくる、大好きな木でした。山椒にしてはけっこう大きな木で、さらに雄株と雌株が1本ずつあったので、こうして佃煮にするために葉を取ってもまだ、アゲハの子の分もたっぷり残ります。あったかいごはんに、ちょっとだけ佃煮をのせてパク。山椒の葉の香りが、どこかミントにも似た清涼感になってお口に広がりました。


引っ越した新しいイエには山椒の木がなく、新たに植えることもありませんでしたが、ご近所に山椒の木が複数あり葉っぱがいただけるので、この味は絶えずにわが家に残りました。食べると、元のイエを思い出しました。
「あのおうち、まだ残ってるのかなぁ」
「どうかなぁ、そのまま住んでくれる人が買ってくれてたらいいね」
庭の山椒はどうなったかなぁ。新しく住んでくれた人が、そのまま大切にしてくれていたらいいなぁ。毎年そう思いながら食べていました。いつのまにか山椒の葉の佃煮は、生まれ育った懐かしいマチとイエを懐かしむ味になっていました。


そんな懐かしいマチに帰ることができたのは、つい最近のことでした。懐かしい友だちが出迎えてくれて、それは懐かしい時間が過ごせました。友だちに「私が住んでたイエ、今どうなってる?」とたずねてみたくなりましたが、それはやめにしました。自分の足で歩いて行って、自分の目で確かめようと思ったんです。友だちは「あなたが前に住んでいたイエ、今はね」なんて教えてくれようとしましたが、
「わー、言わないで、自分の目で確かめてみたいから」
「じゃ明日、一緒に見に行こう」
「うん!!」
そして翌日…。


懐かしい町並みを、友だちと一緒に歩きました。ここは通学路。子供のころの学校帰りを思い出します。景色は昔のままのようにも見えましたが、よく見るとけっこう変わっていました。きっとあのイエも今はないんだろうな。そう思いながら懐かしいイエの近くまでいくと…。あれ、あれれれれ。友だちはパパパッと駆けていって、庭にいたおじさんに「連れてきたよー」なんて声をかけています。


聞いてみたら、なんと今そこに住んでいるのは、友だちのご親戚の方でした。一度売れたイエがまた売りに出て、三度目の住人になったのは、退職して元のマチに戻ってきた友だちのおじさんだったんです。
「こんな田舎に新しい人なんて引っ越してこないよ、イエを買う人がいるとしたらみんな誰かの縁続き」
「うわぁぁ」
イエはきれいにリフォームされていましたが、玄関の場所も窓の位置も昔のままでした。お庭もきれいに手入れされていて、懐かしい山椒の木もそのままの場所にありました。


また会えた。きっとその時、私は泣きそうな顔をしていたと思います。おじさんが、ためしに挿し木にしてみるかいと声をかけてくれました。
「できるんですか?」
「山椒の挿し木は難しいし時期もずれてるからうまくいかんかもしれんけど…、持ち帰りやすいように団子挿しでやってみよう、準備しておくからまた帰りにでも寄ってくんないかい」
思わぬプレゼントに、私は本当に泣いてしまいました。こうして持ち帰ってきた山椒、ちゃんと根付くか不安でしたが、なんとかうまくいったようで、今わが家の庭で育っています。まだ葉を取るには早すぎるチビ山椒ですが、きっといつか大きくなって、わが家の味を支え続けてくれると思います。


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