「ハタチからの揚げ出し豆腐&簡単お手軽揚げ出し高野豆腐」
by id:YuzuPON


父親が息子に対して抱く夢の代表例は、少年時代のキャッチボールと、二十歳を過ぎてからの一緒に一杯でしょう。うちの父は、とりわけ後者を楽しみにしていたようで、私が二十歳になると、さっそく一緒に飲もうと言ってくれました。その時の肴が、揚げ出し豆腐だったんです。


今でもイエで一杯酌み交わすことがありますが、父が喜ぶ肴のダントツ一位は揚げ出し豆腐です。父の酒はとてもいい酒で、けっして泥酔するまで飲もうとはしません。むしろ酒より雰囲気と料理を楽しむ飲み方です。だから肴はとても大切。母の作る揚げ出し豆腐があれば、父はそれだけでご機嫌です。


でも、揚げ出し豆腐はそれなりに手間がかかる料理ですから、普段は遠慮してなかなか頼めません。親子でゆっくり出来る週末だけ、ここぞとばかりに「なぁ母さん、今夜はこいつと飲む予定だから例のやつの準備を頼むよ」と。どうやら私は、揚げ出し豆腐のオーダー要員らしいです(笑)。


わが家の揚げ出し豆腐はとてもシンプルな、どこにでもある揚げ出し豆腐です。が、豆腐の水切り加減、揚げ加減が絶妙。カリッと仕上がった表面に手抜きをしない本物の出汁が絡む味わいは、そのへんの小料理屋で食べるそれより上を行っています。薬味のおろし生姜もいい風味を醸し出して、これは父ならずとも食べたくなる味です。


初めてイエで父と飲んで、この揚げ出し豆腐が出てきた時、私は思わず「揚げ出しってこんなにうまいもんだったのか」と言ってしまいました。それまでもご飯のおかずとしては食べてきましたが、それは複数のおかずの中の一品として口に運ぶに過ぎませんでした。揚げ出し豆腐だけをしみじみと味わったのは、それが初めてでした。酒の肴としてつまむことで、はじめて主役として私の前に現れた揚げ出し豆腐。その本当のおいしさが、二十歳になって初めてわかりました。


父はうれしそうに、二十歳になってわかるのは酒の味だけじゃないんだよな、とニッコリ。酒で家庭の味のすばらしさもわかる。このことは大発見でした。父の酒は味を楽しむ酒。それを家庭の味で楽しみたいという父の飲み方が教えてくたことでした。お父さん、あなたの酒の飲み方を、私も受け継ぎます。


さて、父同様すっかり揚げ出し豆腐ファンになってしまった私ですが、やはり豆腐の水切りから始めるこの料理は手間がかかりますから、頻繁に頼むのは気が引けます。しかも、夜になって突然では、豆腐のストックがあるとも限りません。何かいい手はないかなと思っていたところ、母が面白いアイデア仕入れてきたのです。それは、高野豆腐で作る揚げ出し豆腐でした。作り方は、戻した高野豆腐の水を切り、あとは普通に調理するだけです。まぁ食べてみてよと出された「揚げ出し高野豆腐」は、予想に反してしっとりとした食感。これには驚きました。普通の揚げ出し豆腐とは異なりますが、これはこれでまた、すばらしいおいしさです。母も、これならいつでも作ってあげられるわよとニッコリ。さっそく酒を持ち出して臨時親子晩酌が始まったことは言うまでもありませんでした。


こうして新しい味わいも加わって、これがわが家の幸せ料理。最近はイエはてなのお陰で料理の楽しさに目覚めてきましたので、父母が仲良く飲む時は僭越ながら私が作ります。二十歳からスタートした「揚げ出し豆腐道」ですから、まだこれにまつわるエピソードは少ないですが、これから先に積み重ねていく思い出は多くなりそうです。


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