「もう一つの秋の実り、新蕎麦」by id:Fuel


秋の楽しみの一つが新蕎麦です。本当は、蕎麦という作物は地域によって蒔き時期も収穫時期も違うので、何月が新蕎麦の季節とは決められないのですが、やはり蕎麦どころの新蕎麦祭りのお知らせだとか、蕎麦屋に張り出される新蕎麦の貼り紙などを見ると、蕎麦好きは胸の高鳴りを押さえられなくなります。


しかし、今のニッポンの蕎麦の原料の多くが輸入であることを、皆さんはご存じですか?

近年の消費量の約80%は輸入品であり、2006年貿易統計によると、中華人民共和国・63,363トン、アメリカ合衆国・11,196トンと万トン単位の輸入があるが、それ以下は極めて少なく、カナダ・1,474トン、その他となっている。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BD%E3%83%90#.E8.BC.B8.E5.85.A5


日本の蕎麦にあって日本産にあらず。そんな蕎麦が横行しているのが現代なんですね。


ソバは全世界的に広く分布し、アジアはもとより、イタリアのピッツォッケリ(蕎麦粉のパスタ)、フランスのガレット(蕎麦粉入りクレープ)、ロシア・ウクライナのブリヌイ(蕎麦粉入りパンケーキ)など、様々な料理として食べられてきていますが、日本の蕎麦が産地によって味わいを異にすることからもわかるように、ソバなら何でも同じというわけにはいかないのです。


特に中国産の場合、日本の約26倍に相当する広い国土のほぼ全体でソバが作付けされていますから、一口に「中国産」といっても、その品質は実に様々なんです。こういう産地詳細不明のソバが商社を通じて大量に輸入され、形だけの日本の蕎麦として加工され売られていく。これでは本当の蕎麦のうまさなんてわかるわけがないと思うんです。


それに、蕎麦という物は、粉に挽いて加水したその時から、劣化のスピードが早まります。麺の作り置きができない。それが蕎麦という食べ物なんです。ちなみに昔、浅草の道光庵というお寺に蕎麦打ちの名人の和尚さんがいましたが(蕎麦屋に何々庵といった屋号が多いのはこの道光庵が元ですね)、その蕎麦が評判となって人々が押しかけるようになったことから、和尚さんは本院から蕎麦作りを禁じられてしまいます。蕎麦打ちに忙しくて、本業がおろそかになってしまったんですね。作り置きのきかない蕎麦ならではのエピソードです。


そのようなわけで、わが家の新蕎麦祭りは、自家製手打ちで楽しみます。産地のはっきりした国内産の新蕎麦を使い、イエのキッチンで打ってその場で茹でます。このうまさは格別。どんなに手間をかけても価値があると思えるうまさです。


わが家の蕎麦打ち職人は父。いい新蕎麦が手に入ると、次の週末はわが家の新蕎麦祭りです。この時の父の張り切りようったらありません。私も腕によりをかけてダシを取る所からつゆ作り。かえし(つゆの素となる醤油や味醂などを合わせて保存したもの)は、長く寝かせておいた方が味わいが深まるので、あらかじめどんな蕎麦にも対応できるように、加熱して作る本返し、加熱しない生返しなどを数種類仕込んでおきます。こうして迎える蕎麦の収穫祭「イエ新蕎麦祭り」。今年で4回目くらいになるのかな。アマチュアながら、わが家の蕎麦職人親子はなかなかの腕前になってきたと自負しています。


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