「シャボン玉のおにいさんになった日」by id:Fuel


自治会の子供行事の話が出ていますが、私も同じく地域の子供行事からのルポになります。今回の私の役目は「シャボン玉のおにいさん」でした。イベントのアトラクションとして、おっきなシャボン玉を作るコーナーをしようということになったんです。


まずは実験。以前のいわしでシャボン玉液にガムシロップやかき氷のシロップなどの糖分を添加すると割れにくいシャボン玉が出来るという書き込みがあったので、それで実験してみました。しかし、ストローで吹くシャボン玉なら十分な強度が得られますが、針金を輪にして作るような大きなシャボン玉としては、ちょっと強度が足りない感じです。糖の添加だけでは、シャボン膜が自重に負けてしまうのです。


そこで、追加の添加剤として、PVA(ポリビニルアルコール:PolyVinyl Alcohol)の採用を検討してみることにしました。検討項目は、毒性や自然界での分解のされやすさなどです。子供たちと楽しむ以上、これらの可能性は十分に検討されなければなりません。また、シャボン玉は環境中に放出された後は回収されませんから、加水分解や生分解などのプロセスが存在するかどうかの検討も欠かせません。


調べてみました。PVAは洗濯糊や化粧品などの原料として長く使われていることから、比較的毒性は低いだろうと考えていたのですが、メーカー発表のデータとして

5%のポリビニルアルコール水溶液(食塩濃度0.9%)を1ml、25 日間、毎日ラットに皮下投与したところ、高血圧症や腎臓、肝臓および心臓の肥大が認められた。
http://www.kuraray.co.jp/products/msds/pdf/M5OE1216-1-055646.pdf

といった記述は見つかったものの、このような高濃度に人体が汚染されることは稀だと思われますので、毒性については、あるにしても低いという認識でいいのではないかと考えました。発癌性についてもIARC発癌性評価は3の、発癌性評価ができない物質となっています。


子供と共に楽しむに当たって欠かせない考察に、アレルゲンとしての可能性の検討がありますが、これについてもアレルギー性疾患治療剤の一部にこれが添加されていることから、現状、アレルゲンとなりうる物質とは考えられていないと受けとめて良さそうです。

また、自然界における分解については、上記メーカー発表文献に「シュードモナス菌を含有するスラッジによって生分解する」とあり、蓄積性についても「濃縮性が無いまたは低いと判断される物質に分類されている」とありました。


・さらにわかりやすいPVA生分解の解説
http://www.ed.kagu.tus.ac.jp/~kaken/studies/2005fri.htm


一応念のため、知り合いに化け学系の研究者が何人かいますので意見を聞いてみましたが、皆、上記のような認識で差し支えないだろうという見解でした。唯一の注意点は、粉末状の物は吸引の恐れがあるので、子供の前では洗濯糊として作られた状態の物を使う、このくらいという意見です。あ、それは大丈夫、子供の前で扱うのは既にシャボン玉液として調合された状態の物だけだから。


これで事前検討はクリア。計画はGOです。シャボン玉液の材料ならびに調合比率は、ネット上の様々なデータを参考にしながら何通りか実験して、次のように決めました。
[A] 液体石鹸 純石けん分30%(合成洗剤は環境を汚染する恐れがあるので避けました) 250ml
[B] PVA洗濯糊 250ml
[C] グラニュー糖 10g
[D] 水 1リットル


大きなシャボン玉は、直径数十センチの輪にシャボン膜を張り、輪を振って飛ばす方法で作ります。このための輪として、針金ハンガーを使いました。この工作は、せっかくなので行事の打ち合わせのために訪れた児童館で行いました。


さっそく子供が集まってきました。
「おー、兄ちゃん誰?何やってんの?」
「さー、私は誰でしょう、これから何をするのでしょう」
針金ハンガーを取り出します。
「あ、洗濯物干すんだ」
「ぶー、はずれ。これからこれをな、ちょっと離れて見ててくれよ、よいしょっと。この曲がっている所を伸ばすのはちょっと大変…、はい、まあるい輪っかになりましたー」
みんな、何やってんだこいつ、という目で見ています。


「これはねー、シャボン玉を作るための道具なんだよ。この輪の中に石鹸の膜を張って振ると、ストローで吹くのとは比べ物にならない大きなシャボン玉が出来る…はずなんだ」
あー、テレビで見たことあるよ、という声が上がりました。
「じゃぁねぇ、ここからはみんなのうちの誰かに手伝ってもらおうかな。この中で包帯の巻き方上手な人いる?」
みんな、えー、と言っています。
「じゃ、手芸とか得意な人」
○○ちゃんと○○ちゃん〜、と声が上がりました。
「それじゃ最初に、その二人にお願いしようかなぁ。あとで他の人にもお願いするからよく見ててね」


二人に、ハンガーの輪っかに、きれいに包帯を巻き付けてもらいました。これは輪に十分シャボン液を含ませるための細工です。使ったのは普通のガーゼ包帯。ていねいに、きっちりと、半幅ずつオーバーラップさせながら巻き付けてもらいます。まず最初の一周を5年生の子が、さらにもう一周を4年生の子が巻いてくれました。半幅ずつ重ねて2周させたので、都合ガーゼが4重に巻かれていることになります。巻き終わりを凧糸で止めて完成。同じ物をもう一つ、今度は男の子たちにやってもらいました。


これで準備はOK。
「今度ここで子供フェスティバルがあるだろう?そこでこれを使って大きなシャボン玉作りをするから、みんな遊びに来てくれよ」
「おっけー」


当日は、子供たちみんなにハンガーの輪を渡して、大きなシャボン玉作りに挑戦してもらいました。かき氷のテントも出たので、先がスプーン型になったストローもあります。
「ストロー捨てずに持っていけば、あそこでシャボン玉ができるよ」
テントでそうPRしてもらったので、ストロー組もたくさん集まりました。シャボン液はタライの中に入れてあるので、みんなそこにストローを突っ込む形になりますが、シャボン液を小分けにして渡すより、この方が誤飲の危険性がなくていいようです。


シャボン液に浸した側を口にしてしまうことの防止としては、ストローの先端をカットする際、切り込みを入れて十文字に開く加工を、子供たち一人一人にやってもらいました。もちろんこれは、大きなシャボン玉を作るためにも役立つ加工ですね。


シャボン液の成分については、一応説明パネルを用意して、毒性、環境汚染などの問題についての検討結果を掲示して、保護者の皆様への理解を求めました。また、子供たちには、このシャボン液は極力危険が少ないように考えて作った物なので、おうちの洗剤やシャンプーを使って遊んだりしないようにねと念押ししてから遊んでもらいました。


万が一に備えて、目に入った場合、口に入った場合、飲み込んでしまった場合などの応急処置の打ち合わせもしていましたが、そういう事故は一件もなく大成功でした。以上、もし子供たちとシャボン玉で遊ぶ企画を立ててみようという方がいましたら、参考にしていただければ幸いです。


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