「夏フェス! with 父」by id:momokuri3


音楽好きの夏といえば夏フェスです。巨大な野外ライブですね。その夏フェスに一緒に行くはずだったうちの一人が、突然の腹痛で倒れてしまったのです。本人は無理してでも行きたい様子でしたが、真夏の炎天下であることを考慮してリタイア。さぁ、彼の分のチケットをどうしようかということになり、一緒に行きたい人を探したのですが、泊まりがけになりますので、なかなか急には決まりません。


するとメンバーの一人が、
「お前のお父さん、買い受けてくれないかな」
と言い出したのです。
「うちの親父?」
「前にライブハウスで一緒になって、その後飲みに連れてってもらったことがあるんだ、あれほど音楽をわかっている大人は珍しい、こういうイベントならきっと乗ってくれるよ」
「でも一人で行くかなぁ」
「何いってるんだ、俺たちと一緒に行くんだよ」
「え、ええ〜!!」


チケットを無駄にするのはもったいないですから、一応声をかけてみることにしました。すると二つ返事で行くとの答え。もちろんチケット代は即金で払ってくれると太っ腹です。かくして、急に平均年齢が高くなったパーティーで、一路会場を目指すことになりました。


会場に到着すると、父は一言、「昔も今も変わってねぇなぁ」。
「昔もこういうの、あったんすか?」
「あったよ、フォーク時代の中津川から始まって、ロックが盛んになってくると郡山のワンステップフェス、軽井沢のアートフェス、次々色んなのが開かれた」
「やっぱりこんな感じ?」
「そうそう、親が見たら泣きそうなカッコしたやつらも一杯いてさ」
「あはは、俺たちも見たら親が泣く?」
「泣く泣く」


自分も親なのを棚に上げてなんということを(笑)。キャンプサイトにテントを設営、あちこち回って会場内を確認したら、あとはそれぞれお目当てのアーティストのステージを追いかけながら個別行動です。時々携帯で連絡を取り合いますが、だんだん父と一緒に回るメンバーが増えていました。父のお勧めステージがマニアックで面白いと評判のようです。私は親子で行動しても新鮮さがないと思いちょっと距離を置いていましたが、父は全く世代の壁を感じさせていないようでした。それは純粋に音楽でつながっていられるからに他なりません。そんな父を、ちょっと誇りに感じました。


夜はテントの周りで、直前までの興奮冷めやらぬキャンプです。食事は父お勧めのカ○リーメ○ト。
「音楽は体力だからな、ビタミンミネラルのバランスも欠かせない、俺もツアーの時はよくこいつのお世話になったもんさ」
「ええー、オヤジさんの若いころからこれ、あったんすか?」
「ったりめぇよ、山下達郎が高気圧ガ〜ルとか歌ってたころからあるんだぞ」
「おお〜」
話がだんだんウッドストックから始まる大規模野外ライブの歴史になっていき、第二のウッドストックと呼ばれたロンドン郊外ウェンブリー・スタジアムで開かれたライブエイドに話が及んだ時、
「あれがクイーンの解散を押しとどめたんだよね」
と声が入りました。
「そうさ、だからフレディは『メイド・イン・ヘヴン』でもクイーンのボーカリストであり続けたんだ」


フレディ・マーキュリーが死去したのは1991年。アルバム「メイド・イン・ヘヴン」のリリースは1995年です。過去の音源やデモテープなどを元に、あたかもフレディが一緒にレコーディングしたかの如くにオーバーダビングして作られたのが、このアルバムでした。


「そしてクイーンは今も存在し続けている」


父の言葉を受けて、一人がアイスボックスを蹴り、手拍子を入れて、ドンドンチャッ、ドンドンチャッとリズムを刻み始めました。それに続いて、一緒にいた全員で、音の出る物をかき集めて即興パーカッションです。父が立ち上がって、
「Buddy you're a boy make a big noise…」
と歌い出しました。クイーン名曲の一つ、「We Will Rock You」(※)です。もちろん「We will we will rock you」のコーラスパート(斉唱ですが)は全員で。騒ぎに気付いた周囲からも「We will we will rock you」の歌声が上がりました。この間およそ2分弱。しかしキャンプサイトの一角はその瞬間、すごい熱気に包まれていました。それはさっきまでのライブに勝るとも劣らない興奮の一瞬でした。クイーンが凄いのか、フレディの遺したものが凄いのか、うちの父が凄いのか。おそらくその全てでしょう。往年のロッカーの熱い魂を見せた瞬間でした。


もちろんあまり騒いでは係員につまみ出されますから、歌い終わるやいなや、サッと座って何ごともないように装うのがまた大人。私たちも何ごともなかったかのような素振りをしましたが、心は熱く燃えていました。
「音楽って凄いよな」
「うん、音楽の力を改めて感じた」
「俺、ここに来てほんと良かったよ」
みんな口々にそんなことを言い合っていました。私も改めて、音楽のすばらしさ、そしてわが父を誇りに思えることの興奮を噛みしめました。若い世代に迎合するのでも壁を作るのでもない、自分の持つ高みに若い世代を引き上げていける本当の意味での大人。かっこいいと思いました。全てが終わって帰宅後の父は、はしゃぎすぎて腰いてー、頭振りすぎて首いてー、俺ももう年だなぁと嘆いていましたが、それも含めて、成熟したロック野郎の父が輝いて見えた夏でした。


※文中歌詞引用元
We Will Rock You」 作詞・作曲:Brian May


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