「梅雨の室礼(しつらい)」by id:TomCat


一部地域を除いては日本の代表的な季節の風物詩である梅雨ですが、梅雨にちなんだ行事というのはあまり聞きません。ですから梅雨時の室礼を考えようとすると、お手本になる例が少ないんです。でもだからこそ自由に、自分らしさ、そのイエらしさを表現していけるということですよね。それでは梅雨の室礼、いってみましょう。


まず生け花ですが、梅雨というとまず思い出すのは紫陽花ですが、私は紫陽花は他に使いたいので、恒例の母の月命日のお花には、花菖蒲を中心に使うことが多いんです。花菖蒲というと端午の節句、5月というイメージが強いですが、新暦で言うとアヤメやカキツバタが5月の花。花菖蒲は自然に咲かせるなら、ほぼ6月一杯が花の季節となります。ですから、梅雨のしとしと雨の中に咲く花菖蒲っていうのも絵になるんです。お節句にはスクッとした姿を生かした強い芯で勇ましく生けていきますが、この季節には、花の可愛らしさを生かした柔らかい感じで生けていきます。生け花という造形を意識せず、ラフな感じで花瓶に挿してもいいですね。イメージが湧かない方は、一度雨の日に花菖蒲を見に行ってみてください。


飾り物としては、私はこの時期には扇をよく使います。蒸し暑さを感じる日には、爽やかな風を連想させる扇がとてもよく似合います。で、実はここに紫陽花を使っているんです。といっても、それは扇に描かれた紫陽花の絵。白地の扇を買ってきて、それに色インクと筆で自分で描いてみました。淡い色調がとても気に入っています。横にはちょこんとカタツムリさんの置物。これも可愛いアクセントになってくれています。


本物の紫陽花は、ダイニングテーブルの上に水を入れたコップを置き、茎を短めに切って挿して飾ります。コップの上にアフロヘアがあるみたいな格好で、とても微笑ましいスタイルです。


また、紫陽花の柄は、女性の和服の夏帯としてもよく用いられますよね。そんなのをさりげなく飾ってみると、これがまたいい感じなんです。独身男の私がなぜ女物の帯を持っているのかという謎はさておいて(笑)、夏帯から漂ってくる清涼感もまた、梅雨時の湿った重苦しい空気を、爽やかなものに変えてくれます。


さて、最後は部屋だけでなく、「心の室礼」もしていきましょう。梅雨時に心がけたいのは「傘かしげ」です。これはいわゆる江戸しぐさのひとつで、雨の日に人とすれ違う時には傘をちょっと外側に傾ける動作のことを言います。こうして傘同士がぶつかり合ったり、相手にしずくを垂らしてしまうことを防ぐんですね。


みんながこういった思いやりを持ちながら歩いたら、ジメッとしたマチが一転爽やかになると思いませんか。心の室礼がマチを彩る。そんな過ごし方で、日本の粋を感じながら梅雨を楽しんでいきましょう。


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