「タンスから健康生活を始めよう 現代タンス防虫剤考」by id:TomCat


大切な衣類をしまっておく場所には防虫対策が不可欠ですが、一般に防虫剤と呼ばれている物は、
1.薬物の毒性を利用した殺虫剤
2.臭いなど利用した忌避剤
 a.防虫目的に毒性は利用されないが毒性がある物
 b.高い毒性は認められない物
に分けることが出来ます。が、現在市販されている物はそのほとんどに毒性があり、2.のb.に分類できるような安全な物は、ごく一部のハーブ製品などしかありません。ではその防虫剤の実態を見ていくことにしましょう。


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●まず、伝統的な防虫剤の代表は樟脳ですね。樟脳はクスノキから採取される精油の主成分で、化学的にはテルペノイド化合物の一種です。防虫剤としては伝統的に知られている強い臭いによる忌避効果が利用されてきたものでしたので、上の分類からすると2.のカテゴリーということになりますが、実際には毒性があります。


●防虫剤の代名詞であるナフタリン(ナフタレン)は、現在では登録が失効しているので農業では使われませんが、かつては殺虫剤として登録されていた農薬でした。


●パラジクロロベンゼンも、もう一つの防虫剤の代名詞ですね。この薬物名からとられた「パラ」の2文字が入った防虫剤がたくさんあります。この危険性はDirective 67/548/EEC(※1)によればXnかつN、つまり有害で環境への危険性がある物質とされ、NFPA 704のファイア・ダイアモンド(※2)においても、健康障害についてはランク2のクロロホルムなどと同程度の危険性とされています。この物質も殺虫剤で、厚生労働省シックハウスに関する検討会において策定された「個別の揮発性有機化合物(VOC)の指針値(13物質)」の中でも、その室内濃度指針値が掲げられている有害な物質です。


※1
Council Directive 67/548/EEC of 27 June 1967 on the approximation of laws, regulations and administrative provisions relating to the classification, packaging and labelling of dangerous substances.
欧州連合理事会制定の危険物の取扱いに関する通達で、日本では「危険な物質の分類、包装、表示に関する法律、規則、行政規定の近似化に係わる 1967年6月27日付理事会指令」と表記される。


※2
National Fire Protection Association(NFPA:全米防火協会)が策定した化学薬品の危険性を表示するための規格で、ファイア・ダイアモンドと呼ばれる4区画に区切った菱形マークで健康障害、燃焼性、不安定性、特記事項の4項目を表示する。


●そして、現在市販されているもう一つのタイプが、ピレスロイド系です。無臭タイプとされている物の大部分が該当し、これは一般に殺虫剤としてスプレーに入って売られている物と同様の作用機序を持つ物質です。比較的不安定な物質が多く、一般に時間と共に毒性は減少していきますが、毒性が強い時に人体に作用すれば、当然健康被害が懸念されます。防虫剤の場合は、シュッと吹いてそれで終わりのスプレー式殺虫剤と違って、持続的に成分(毒)が発散されていくわけですから、時間と共に毒性が低減していくから差し支えないとは言えません。


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さて、こうして見ていくと、「防虫剤」と言ってもその多くは「殺虫剤」であり、毒物であると言うこと。人体も環境も汚染する恐れが高い、かなり危険な商品であると考えることが出来ますね。


でも、衣類を虫から守らないわけにもいきません。どうしたらいいのでしょうか。


まずやはり、スタートラインとして、虫を家の中に入れないこと。ことが基本ですよね。衣類を食べる虫は、だいたいヒメカツオブシムシヒメマルカツオブシムシ、イガ、コイガなどの幼虫です。特に衣類の食害の多くはヒメマルカツオブシムシの幼虫によるものと言われていますが、この虫の成虫は、白い物に集まる習性を持っているんです。本来は白い花を好む虫なんですが、白い洗濯物などにも喜んで飛んでくるんですね。ところがヒメマルカツオブシムシの成虫は体長が1mmにも満たない小さな虫ですから、人はそれに気付かないんです。で、虫が付いたままタンスにしまうと、そのうちタンスの中で卵を産んで・・・・、ってなことになるわけです。


そこで、高価な衣類などと同じタンスにしまう物は室内干しにするなどの対策をすると、これでかなり虫の被害を軽減することが出来ます。一般にスーツやコートなんかはベランダに干しませんよね。そういう衣類と共にしまっていいのは、やはり屋外に干さない衣類。そう考えていけば分かりやすいと思います。


それでも今いる虫は、早々に退散してもらわなければ困ります。そのためには、やはりタンスに風を入れることです。一般に幼虫は体の表面が弱いですから、乾燥を嫌うんですよね。時々タンスの中身を全部出して開け放しておくと、けっこう虫は逃げてくれます。


安全性の高い忌避剤としては、ハーブのラベンダーが適しています。ドライのラベンダーを布などに包んでタンスや衣装ケースに入れておくと、けっこういい虫除けになります。春夏秋冬、各季節ごとに新しい物と交換してください。このほかローズマリーにも同様の忌避効果があるそうです。


同じく、シナモンも忌避効果を発揮してくれます。シナモンスティックをそのまま布にでもくるんで入れておけばOK。タンス一棹に、だいたいスティック5本くらいあればいいでしょう。これも各季節ごとに新しい物と交換してください。


ただし、これらのハーブやスパイスを入れた袋は、直接衣類に接触させないようにしてください。引き出しの中に入れる場合は、小篭や蓋無しの小箱などを利用するといいですね。


どうでしょう。臭わないけど危険なピレスロイド系毒物を使った殺虫剤なんかより、優しく香るハーブの方がずっと安全だし、そしてお洒落だと思いませんか?もちろんハーブは殺虫剤ではありませんから、殺して根絶やしにする効果はありません。ですから、前述した防虫剤に頼らない防虫も組み合わせていかないと、なんだよ、全然効かねえじゃん、ということになりますが、適切な対策を施していれば、これでしっかり衣類を虫から守れます。


シックハウスを嫌って高いお金を出してナチュラルな素材の家を建てても、タンスにせっせと防虫剤を注ぎ込んでいては何にもなりません。現代の住宅は気密性が高いですから、室内で使う殺虫剤には、特に注意する必要があります。


人を呪えば穴二つと言いますが、これは人間以外の生き物に対しても同じです。生き物を殺して害から守ろうとすれば、返す刀で人間の体も蝕まれると言うこと。このことを忘れず、安心安全な防虫対策で、大切な衣服を守ってくださいね。タンスから始まる健康もある、という気付きも、大切な暮らしのサプリではないかと思います。


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