「風の名を持つ植物たち」by id:CandyPot


まず有名なのは梅。梅のどこに風の文字が?と思われるかもしれませんが、梅には風待草(かぜまちぐさ)というすてきな別名があるんです。この名前の由来はよくわかりませんが、梅には香散見草(かざみぐさ)という別名もあるので、もしかしたら「香散待草」の意味だったのかなぁと想像します。とても香りのよい花ですから、香りを運んでくれる風が早く私の方にも吹かないかなぁと待っていた。そんな気持ちが、この名前を与えたのかもしれません。


アネモネも、風の名を持つ植物です。ギリシャ語のanemoは風のこと。これに何々の子を意味するoneがついたのがアネモネです。


ギリシャ神話では、この花はアドーニスという青年にまつわるお話として登場します。アドーニスはフェニキア王キニュラースと、その実の娘、王女ミュラーの子。といってもこれにはやむを得ない事情があったのです。


キニュラースの王家は代々女神アプロディーテーを深く信仰していましたが、その王女ミュラーのあまりの美しさに、その美はアプロディーテーに勝るという人が出てきてしまいました。これを聞きつけたアプロディーテーは怒りました。そしてこの美しい娘が誰とも恋をすることのないように、実の父を好きになるよう仕向けてしまったのです。


お父様に恋いこがれてしまったミュラーは、祭りの夜に顔を隠したまま、父である王に思いを打ち明けてしまいます。そしてついに一夜を共にしてしまいました。でもやはり実の娘だということがばれてしまい、王は怒りと失望から、自らの娘を殺そうとしてしまいました。


こんなミュラーを哀れんだ神々は、ミュラーの姿を没薬の木に変えて守ったのでした。没薬がミルラと呼ばれるのはそのためです。でもやがて、その木に走ってきた猪がぶつかってしまいました。木は裂けて倒れてしまいました。するとその中から、なんと人の赤ちゃんが生まれてきたのです。それがアドーニスでした。


これを見たアプロディーテーは、赤子のアドーニスを助け上げ、冥府の王ハーデースの妻、ペルセポネーに預けました。やがて美しい少年に成長したアドーニスを、アプロディーテーが迎えにやってきます。しかしペルセポネーはこの美しい少年を渡すことを拒みました。そして激しい争いに。


二人の女神の争いは、ついに天の審判を仰がなければおさまりがつかなくなりました。その結果、一年を三つに分け、アドーニスは一年の三分の一をアプロディーテーの所で、三分の一をペルセポネーの所で過ごさなければならない、しかし残りの三分の一は本人の自由にしてよいという裁定が下ったのです。


アドーニスはその通り、一年の三分の一をアプロディーテーの所で、三分の一をペルセポネーの所で過ごしました。そして自分の自由になる三分の一がやってくると、アドーニスはアプロディーテーと一緒に過ごすことを望んだのです。


これではペルセポネーの立場がありません。ペルセポネーはアプロディーテーの恋人である軍神アレースに、あなたの恋人は浮気してるわよと告げ口をしてしまいました。軍神アレースは激怒。浮気の相手はあの少年かとイノシシに化けて、危ないから狩りはやめてとアプロディーテーに言われていたのに出かけてしまったアドーニス目がけて猛突進。哀れアドーニスは命を落としてしまいました。


アプロディーテーはアドーニスの死を激しく嘆き悲しみました。これを見たペルセポネーの夫、冥府の王ハーデースは、少年を再び蘇らせることはできないが花にならしてやれると、アドーニスの流した血から花を咲かせたのでした。


でもその花は、風とともに咲き、風とともに散ってしまう儚い花。そこで人々はこの花を風の花、アネモネと呼ぶようになったということです。


でもアネモネはほんとは多年草。おまけに、風に運ばれる種からも、球根でも増えることができる、とてもたくましい草なんですよ。さらにじつはアネモネは毒草で、全体にロトアネモニンという名が付けられた毒を持っています。アネモネの茎を折ると汁が出てきますが、それに触れてしまうと、水ぶくれの炎症になってしまうことがありますから気を付けてくださいね。こんなふうに花になったアドーニスは、見かけは儚くともとても強くなって、大地にしっかりと根を張って生き続けているようです。


ほかにも、風蝶草(クレオメ)など、ご紹介してみたい花がいくつかありますが、長くなってしまいましたので今日はこのへんで。皆さんも風の名を持つ植物、いろいろ探してみてくださいね♪


»このいわしのツリーはコチラから