「インドの吉祥模様コーラム」by id:Cocoa


インドには、玄関先に描かれる美しい模様の砂絵があります。
http://www.bhagavati.de/sva.htm
それは多分に信仰的な意味合いを持っています。
まず吉祥模様を一心に描くことが祈りと瞑想の形のひとつと考えられていること。これは仏教の写経に似ているかもしれません。
もうひとつは自然に対する奉仕の考え方です。今は色砂で描かれることが多いコーラムですが、昔は小麦粉などを使うことが多かったそうです。それは蟻などの虫や小鳥達に与えるためでした。


コーラムは、必ず女性によって描かれます。インドの女の子は昔から、お母さんと一緒にこれを描き、その技術や多彩な模様の数々を受け継いできたそうです。インドではコーラムを美しく描くことは大切な女性の教養のひとつであり、これがちゃんと出来て初めて一人前と言われてきたそうです。


サリーが大好きなナンチャッテ印度娘の私も、さっそくコーラムに挑戦してみることにしました。色砂は無いので、材料は小麦粉です。地面に撒きますが、もったいなくないですよ。これは蟻さんや小鳥さんへの捧げ物です。一番簡単な、ちっちゃな模様を描いてみました。


仕事がお休みの日曜の朝にやってみたのですが、午後になったら母のキャーという悲鳴。どうしたのと玄関に行ってみると、母は、
「誰よ、こんなところに絵を描いたのは。」
とおかんむりです。


「私よ、これ、インドの幸せを呼ぶ模様なの。」
と言うと、
「だからって玄関先に困るじゃない。」
と言うので、
「それ、踏んで消しちゃってもいいのよ、イエに幸せを呼ぶおまじないだけでなく、マチへの捧げ物でもあるから、捧げた誰かに踏まれればそれだけ縁起がいいって言われてるの。」
すると母、
「それはいいんだけど、見てよこの蟻。模様は踏んでもいいかもしれないけど、蟻は踏んだらだめでしょう。」


わぁ、お母さん優しい。都会生活に慣れきっていても、ちゃんと小さな命を大切にする心を忘れない人でした。私はちょっと感動して、涙ぐんでしまいました。これがコーラムの運んでくれた幸せでなくて何でしょう。
母がそんな私を見て「どうしたの」と言うので、「今この模様が幸せを運んできてくれたの」と答えました。母は「なによ、変な子」と笑っていましたが、私はとても大きな幸せに包まれていました。


でも、家族に迷惑をかけるわけにはいきませんので、それからは玄関の隅っこの通り道から外れたところに、ちっちゃなちっちゃなコーラムを描くことにしています。父は「これって新種の盛り塩か?」なんて言っていますが、東洋の文化は元をたどれば一つのこともありますから、もしかしたらどこかでつながっているかもしれませんね。


最近色んな模様が描けるようになってきました。インドならこれで私も一人前の女性の仲間入りです。あ、インドにはまだ他にも63種類、合計64種類の女性のたしなみがあるのを忘れていました。ナンチャッテ印度娘への道は、まだまだ遠そうです。


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