「八朔」by id:watena


果物のことではなく、暦の言葉の八朔、八月朔日(旧暦一日)のお話です。旧暦の8月は今でいう9月に相当しますから、もう早稲なら穂が実ります。これを祝ったのが八朔です。
八朔の行事は地域によって色々あるようで、たとえば村の神様にお酒を供え、お下げした御神酒と竹筒を持って田畑に行き、各田畑の入り口に御神酒を注いだ竹筒を立てて回る。あるいは初穂を摘んでお世話になった人や親しい人などに贈るなどの習慣が見られます。


昔はこの日は節句と同じように大切にされ、八朔の節句、田の実の節句などと呼びならわされていました。地域によっては桃の節句端午の節句と同じように子供の健やかな成長を願う行事の日ともなっています。一例をあげれば、福岡県芦屋町の八朔の節句(国の『記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財』)などがあります。
http://www.ashikan.jp/a0211_hassaku.htm


「田の実」の音は「頼み」に通じますから、八朔はこれから迎える本格的な収穫における豊作を祈願する「頼み」の農耕儀礼でもありました。これが恩ある人や親しい人に初穂を贈ってこれからもよろしくお願いしますと「頼む」習慣になり、さらに初穂ではなく贈答品を贈る今のお中元やお歳暮のような儀礼にもなっていたそうですが、この「頼み」の行事は現代でも京都の祇園などにしっかりと根付いて残っています。
現代の祇園の八朔は新暦の8月1日に行われますが、この日祇園の芸妓さんや舞妓さんたちは、お正月に匹敵するあでやかな模様の入った黒紋付の正装で、お世話になっているお師匠さんやお茶屋さんなどに日頃の感謝と「頼み」の挨拶をして回ります。


話が農耕儀礼としての八朔に戻りますが、今は八朔に由来する行事を新暦の9月1日に行う所もあるようです。七夕祭りを8月の7日前後に行う場所があるのと同じで、新暦の8月1日を月遅れにしておおよその日取りを一致させるということなのでしょう。
するとこの日は立春から数えて210日目のいわゆる二百十日に当たります。旧暦では閏月の入り方などでいつが二百十日になるかは年によって違いますが、新暦9月1日に行うようになると、八朔は台風被害が出ないようにと祈る風鎮めの行事とも重なります。現代ではあまり聞かれなくなった八朔ですが、各地で行われる風鎮祭などにその名残が見られる所も少なくないと思います。


なお、柑橘類のハッサクは、だいたい旧暦の8月1日あたりから食べ頃になるという意味で、この名が付いたのだそうです。八朔の名を聞いたら、かつては旧暦8月1日に色々な行事が行われていたことを思い出してみてください。そろそろ早稲の初穂が実る時期なんだなぁと思いを馳せるだけでも、何だかとても有り難く幸せな気持ちになってきます。


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