「畑仕事真似事日記」by id:Catnip


知り合いから、土地を借りる気はないかとお話を頂いたのが数年前。場所はとある市街化調整区域の一角です。昔、原野商法の市街地版のような商売が流行った時期があり、宅地にできない土地をまるで宅地のような分譲地に見せかけて売るという時代があったのだそうです。もちろん最終的に購入を決めた時点で市街化調整区域だということは明らかになりますが、すぐ規制は解ける、今購入しておけばその時に高値で売れますよなどと言葉たくみに言いくるめられて購入と相成る次第。そんな土地を相続した人からお借りしたのが私の畑です。


■12月:
これが私の畑仕事の初月となりました。最初の仕事は、年末年始休暇を利用した小屋作りです。自宅から離れた場所なので、農機具置き場は最低限必要です。材料は、あらかじめ業者さんからまとめ買いして現地に搬入してもらっていた廃材を使います。それを使ってバラック小屋を建てました。大きさは四畳半。我ながらなかなか上手く出来て、あまりのうれしさに一晩泊まってしまいそうになりました。が、さすがに真冬なので断念。
翌日、やはり古道具屋さんからまとめ買いしていた農機具を運び込みました。ガチャンと小屋の鍵を閉めて、これで年内の作業は終わり。あらためて我が畑を見渡すと、耕作面積は一人では耕しきれないくらいあります。これなら小屋の並びにもう一棟小屋を建ててもいいな。そこはお泊まりも出来るスペースにする。あ、そうしたら風呂も必要じゃないか。ここに四畳半を建てて、ここを囲ってドラム缶風呂を置いて、などと地面に木ぎれで線を引きながら皮算用。むくむくと夢が広がっていきました。家に帰って、あそこには水道がないという事に気付くまでは(笑)。


■翌年1月前半:
新年の仕事始めは枯れ草の刈り取りです。随分長く放置されていたと見えて、なんとススキが生えています。ススキは雑木林の前段階。つまり野原の最終形態。ススキが生えると背の低い草の繁殖が抑えられ、その次の段階でここに茂ることが出来るのはそれより大きくなる樹木となります。
小屋から、悪い妖怪が振り回すような、柄が背丈ほどもある巨大な鎌を取り出しました。しかし古道具屋で買った物なので錆びだらけですぐには使えません。まず錆を落として、鎌用砥石で研いで、やっと準備完了。ススキの刈り取りに掛かりました。
ここで初体験の私は、ススキってなんて頑丈な草なんだということを初めて知りました。こんな巨大な鎌を力一杯振り回しても、なかなか刈ることが出来ないのです。もう枯れているというのにです。ガソリンエンジンで回転刃を回して草を刈っていく機械の導入も考えましたが、環境に優しいのは人力です。できるだけ人力でやっていこうと決めて、真冬なのに汗びっしょりになりながら頑張りました。大草原の小さな家のような開拓者になった気分でした。


■1月後半:
堆肥作りの準備です。こんな真冬では満足に発酵してくれそうにないので、とりあえず落ち葉集めだけ。まず落ち葉の一時置き場作りです。地面を少し掘り下げ、杭を立てて廃材で枠を作りました。
翌日、軽トラを借りてきて落ち葉集めに出動。原料は少し離れた裏道に大量に舞い落ちています。熊手で落ち葉をかき集め、トラックに積み込んで畑に搬入。何往復かして、かなり大きく作ったつもりの一時置き場でしたが、満杯になりました。春先まで、落ち葉はこのまま野ざらしにしておきます。


■2月:
ススキは刈り取っただけで、まだ根はそのままです。春までに少しでも根を取り除き、耕作地を確保することにしました。手作業では大変なのでユンボ(パワーショベル)の小さな物をレンタルで借りようかと思いましたが、仕事で耕作するわけではありませんから、ゆっくりと手で開拓していくことにしました。
しかしこれが大変な重労働でした。ススキは地下茎を持っていますが、横には広がらず、株の周りに集中的に新たな芽を出して、どんどん大株になっていく性質を持っています。長年はびこったススキは大変な大株。その根の除去は、まるで岩だらけの荒れ地を開墾していくような作業です。しかしそれはススキの生きようとする力、生きたいという願いにぶつかっているということ。人がそれを実力で排除していいものでしょうか。
考えた結果、全ての根を除去することはやめにして、ススキの勢力圏を残すことにしました。たかが趣味のために、大切な命を根絶やしにするわけにはいきません。かなりの株を犠牲にすることになってしまいますが、この群生の遺伝子はいつまでも残していこうと思いました。


■3月:
堆肥作りを始めることにしました。一時置き場から一度落ち葉を掻き出し、再びそこを堆積場にします。材料は落ち葉と加熱していない牛糞と鶏糞、そしてコイン精米場からもらってきた米糠です。キッチンから出た野菜屑も使います。生鶏糞は発酵の際に微生物が必要とする窒素の供給源とするため。生鶏糞を直接肥料にしようとすると大量のアンモニアが発生して植物をだめにしてしまいますが、微生物にはアンモニアも窒素供給源として必要ですから、堆肥に混ぜて発酵させるなら問題ありません。
作業手順は頭では分かっていましたが、実際にやってみると大変で、慣れない私は一日がかりの作業になってしまいました。


■4月:
何も植えず、ひたすら耕していました。ちょっとずつちょっとずつ。土の中には色んな生き物が住んでいます。耕すというより、そういう生き物の命を出来るだけ損ねないようにお引っ越ししてもらうことが目的です。
堆肥の切り返し。これは完熟するまで繰り返していきます。
水を確保するため、古い風呂桶を二つ、畑の隅に置きました。これがこの畑の貯水池です。


■5月:
同じくひたすら土の中の生き物に、ごめんよ、ここ畑にするからそのうち大々的に耕すんだ、あっちに住み替えておくれとやっていました。住み替えが完了したエリアには貝殻で作られた有機石灰をすき込み、土質改良を図っておきます。


■6月:
相変わらず何も植えません。どうせ最初は痩せた土地ですから、化学肥料でも大量に撒かない限り、満足な作物は育たないでしょう。初年は今までここに住んでいた生き物たちをススキエリアに移動させる年。作物の栽培は考えません。


前年に落ちた種から草もたくさん生えてきます。今年はそれも仕方ありません。今年、結実前にそうした草を刈り取ることで、やっと来年、少し畑らしくなっていくはずです。


■7月:
6月に同じ。少しずつ少しずつ、蟻の歩みで生き物引っ越し完了エリアを増やしていきました。引っ越し完了エリアも継続的に耕して、悪いけどここは人間が使わせてもらうよというアピールを送っておくことにしました。


■8月:
母を呼んで、畑でバーベキュー。母いわく「これのどこが畑?」。何も植わっていない地面を見て不思議そうでした。今年は作物ではなく土を育てる期間なんだよと言ったら、何それという顔をしていました。


■9月:
小屋の増築を敢行。農機具置き場にしている小屋の隣りにもう一棟隣接して建て、ドアで行き来出来るようにしました。新設の方は私の別荘です(笑)。週末、陽気がいいので寝袋を持ち込んで一晩泊まってみました。灯りはキャンプ用のランタンです。冬にはきっとここに薪ストーブを置きましょう。薪を燃やした灰も土質改良材になるはずです。


■10月:
ススキエリアはススキの花盛り。でも悪いけど、結実前に穂は刈り取らせてもらいました。畑に種を撒き散らされると困るからです。代わりに地下茎に栄養を蓄えてそっちで冬越ししておくれ。


■11月:
無期限でずっと土地が借りられそうなので、柿の木を植えてみました。苗ではなく、既に実がなるほどに成長している木です。引っ越す家のお庭から頂いてきました。完全落葉後なら木は休眠状態ですから、移植は可能なはずです。翌年は無理でも、木が落ち着けば実も楽しめると思います。その他の庭木も畑の隅に移植。なんだかいい感じになってきました。


■12月:
相変わらず、土に虫たちを住み着かせてしまうと翌年耕せないので、ここに来ちゃだめだよというアピールのためだけに土を耕し続けました。堆肥はほぼ完熟したと思いますが、念のため冬越しさせてから施肥していく予定です。こうして我が畑最初の一年が過ぎていきました。ススキエリアの枯れた葉が北風にそよいで、来年もまた来いよと言ってくれているようでした。


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