リブ・ラブ・サプリ〜FORTUNE

茶の湯の心を暮らしに活かす」by id:TomCat


茶の湯の心っていったいなんだろう。ずっとそんなことを考えていたことがありました。たどりついた答えは、茶道とはごく簡単にいってしまえば「室礼(しつらい)」と「もてなし」の生活文化であるということ。だとすれば、たとえお抹茶など点てたことがなくとも、自然の美しさと季節感を大切にした暮らしの装いと、自分を取り巻く人達を幸せにしていこうとする願いのある暮らしは、茶の湯の心に通じるんです。


千利休は、茶道とは何かと問われた時、こう答えたそうです。
「茶は服のよきように」
「炭は湯の沸くように」
「夏は涼しく、冬は暖かに」
「花は野にあるように」
「刻限は早めに」
「降らずとも雨の用意」
「相客に心せよ」
この七則が茶道の全てであると。これぞ「室礼」と「もてなし」のエッセンス。


茶道には、身につけるべき様々な事柄がありますが、突き詰めていけば全てこの七則に帰結します。そう考えると、とてもシンプル。この心は現代の日常の暮らしの中にも、どんどん活かしていけますね。


たとえばお掃除。爽やかな気持ちのいい部屋で家族に過ごしてもらいたいという気持ちは、もう「室礼」と「もてなし」の心そのものです。


料理もそうですよね。食べてくれる人のために、少しでも美味しい物を作ろうと心を込めてキッチンに立つ。そこに食の季節感や、栄養や彩りのバランス、少しでも自然に近い食材を選ぼうとする配慮、器選びや盛り付け方、テーブルセッティングなどの工夫、そして楽しい食事時間を演出していこうとする心遣いなどが加われば、それはもう立派に、料理で茶の湯の心を現していくことになります。


そこで考えました。たとえばイエはてなの本家であるイエラボから「イエ・レストラン」といった提案が発信されてきていますが、そうした現代生活の「もてなしのスタイル」を私達の新しい「茶事」と考えて、そこから茶の湯が育んできた生活文化をさらに発展させていけないかと。


イエでちょっといつもと違う素敵なお食事。あるいは親しいお友達を招いてのお茶会やホームパーティー。そんな時、利休の七則を活かしていくんです。


もちろん茶の湯の美意識は「侘(わび)」と「寂(さび)」に帰結しますから、けっしてお金をかけた豪華なもてなしは必要としません。


「侘」は質素な様を意味します。これは現代生活ではマイナスイメージの概念かもしれませんが、日本では長くこれを美意識のひとつとしてきました。室町時代、僧侶であり茶人であった村田珠光は、当時流行していた高価な「唐物」を尊ぶ風潮に対して、粗末なありふれた道具を品良く用いていく茶の湯のあり方を尊ぶ立場をとりました。岡倉天心は著書「The Book of Tea(茶の本)」の中で、侘を英語で“imperfect”と表現しています。不完全なるもの、それが侘。これも言い得て妙ですね。


そして「寂」は時間の経過によって変化した様子を意味しています。金属に現れる「錆び」もおそらく同じ語源でしょう。英語では緑青(銅や銅合金に現れる錆び)をpatinaと言いますが、長い年月を経て備わった趣きのある様子のこともpatinaと表現します。こうした年月の積み重ねによるエージングを美と考える心は、洋の東西を問わないんですね。


こう考えていくと、どんなイエでも、どんどん「イエ・レストラン」のようなもてなしが可能になってくることが分かります。心を込めて手入れされた家に季節感溢れる室礼をほどこし、心を込めて料理や食卓を整え、心を込めて人を迎えていくならば、築数十年の四畳半一間のアパートでだって「イエ・レストラン」は可能です。むしろ、そうした条件下で、食材の数も限られたような状況で、どれだけ楽しいイエ・イベントが開催出来るかを追求するのが面白い。この楽しみを、利休七則が可能にしてくれます。


こんなふうにして、茶の湯の心を現代に活かしていく。そうしたイエ文化の創出によって、暮らしを楽しく豊かにしていくこと。それがイエはてなの目指すFORTUNEの一つじゃないかなあと思います。