イエ・ルポ 2

「入院先で知り合った男の子」by id:SweetJelly


子供のころ、熱があるのでお医者さんに行ったら、猩紅熱かもしれないと言われて、そのまま入院させられてしまったことがありました。抗生物質で簡単に治療できる病気ですが、制度上はその頃はまだ法定伝染病だったので、大事を取ってしばらく病院で様子を見ましょうということになったようです。いかにも法定伝染病らしく、入院最初の晩はまるで隔離されたような一人部屋。法定伝染病扱いですから親の付き添いもなく、寂しく恐い夜を過ごしました。
検査の結果はすぐ出て、法定伝染病扱いは無罪放免となりましたが、まだ熱が下がらなかったので、そのまま入院を続けることになりました。でも薬が効いたのか、そのうち気分が良くなってきたので、トイレに行くふりをしてそのまま一階のロビーに降りてみました。
ロビーではたくさんの人がくつろいでいましたが、一人歳が近そうな男の子がいました。足を怪我していたようで、車椅子に座っていました。目が合って、自然に話が始まって、私たちはすぐ仲良しになりました。男の子は交通事故だそうで、もうずいぶん長く入院しているようでした。
「ここ、大人ばっかりでつまんないんだよ、よかった、お前が来て。」
「わぁ失礼な。よくないでしょ、入院なんだから。」
「俺がうれしいんだからそれでいいの。」
こういう会話がいかにも男の子です。私は決して友達が少ない方ではありませんでしたが、男子と一対一でこんな話をしたことは数少なかったので、私もちょっぴり嬉しくなってしまいました。
翌日は朝からその男の子と遊ぶのが楽しみでわくわく。でも午前の回診で、君は明日あたり退院で良さそうだねとのお達しが出てしまいました。先生はニコニコしながら、
「良かったね、他にも診てくれた先生がいるからそちらと相談しなければならないけど、おそらく明日には99.9パーセント退院OKだよ」
と言ってくれましたが、私はせっかく仲良くなった男の子とお別れかと思うと、急に胸が締め付けられるような気持ちになってしまいました。
でもさすがは男の子。考え方が前向きです。明日退院になるらしいと言うと、おめでとうと自分のことのように喜んでくれました。私が、せっかく仲良くなったのに寂しいと言うと、
「なに言ってんだよ、今度はお前、俺の見舞いに来いよ」
あ、そういう方法があったんだ。私は急に心が軽くなって、それから後の時間はとても楽しく過ごすことができました。
「お見舞いに何か持ってきてほしい物ある?」
「うーん、何か遊ぶ物。」
「ゲームとか?持ち運べるの持ってないなぁ。」
「いいよ、お前で遊ぶから手ぶらで来れば。」
「私はおもちゃじゃないぞー。」
楽しい時間が流れました。長く入院してると俺も周りも慣れちゃって、親も土日くらいしか見舞いに来ないんだよ、そう言っている横顔がちょっと寂しそうで、また胸がキュンとなりました。
退院して数日後、親に許しをもらって病院に行きました。お花を買って病院に着くと、なんと男の子は手術中とのことでした。ええっ、あんなに元気だったのになぜ。不安な時間が過ぎていきました。最初はロビーで待っていましたが、たまらなくなって、看護師さんに許しをもらって、病室に行って待つことにしました。ベッドの横の台の上に置かれた時計を見ながら待ちました。一分があんなに長く感じたことはありませんでした。あの男の子が無事戻ってくるなら、私はどんな物でも差し出したいと思いました。
やっと看護師さんが来て、手術終わったからもうすぐ来るわよと教えてくれました。先生に付き添われて病室に戻ってきた男の子を見て、私はわぁわぁ泣いてしまいました。そしたら先生が、
「これは骨をつないでいたネジみたいな物を取る手術だったから、もう後は治るのを待つばかりなんだよ、経過はとても順調、だから安心していいんだよ。」
と教えてくれました。よかった。恐ろしい病気とかじゃなくて。安心したらまた涙が出てきて止まらなくなりました。男の子に「ばーか」と笑われてしまいました。なによと怒ったふりをしましたが、もし神様がいたらこんなに感謝したいと思ったことはありませんでした。
これが初恋かどうかは分かりませんが、生まれて初めて男の子のために真剣に祈った出来事でした。