イエ・ルポ 2

「中学の夏に」by id:C2H5OH


季語がテーマだった時にちょっと触れた思い出を、もう少し時期を遡ったところから書かせていただきたいと思います。
新学期が始まったばかりの頃。一人の女子が目に止まりました。校庭の隅で空を見上げているようでした。その日は晴れ渡った空がとても綺麗でした。一瞬強い風が吹きました。後ろで一本に束ねた長い髪がサァッと風になびきました。おそらくその時が、生まれて初めて女の子を綺麗だと思った瞬間だったと思います。
その日の午後、クラスの係決めのホームルームがあり、私は広報委員というのに選ばれました。広報委員会とは、校内放送や掲示物などを担当する生徒会の下部組織です。帰り道で友達が、おい、お前校内放送やるのか、面白そうだな、などと話しかけてきましたが、私はかなり上の空でした。さっき見た女子が誰だったのか、それが気になって仕方がなかったのです。
しばらくして、その子のクラスが分かりました。普段見かけないはずです。私達の教室は2階でしたが、1クラスだけ1階のクラスがあって、その子は1階の教室だったんです。でも時々、最初にその子を見かけたのと同じ場所で、空を見上げているのを見かけることがありました。
梅雨の晴れ間の日、久し振りに空がカラッと晴れ上がったので、もしかしてあの子が来るかなと、ドキドキしながらその場所に行ってみたことがありました。その子がしていたのと同じように私も空を見上げてみました。するとそこは邪魔な電線がなく、空を見るのに最高のスポットであることが分かりました。視界の隅に木の葉を透かしてこぼれてくる緑の光。私はその美しさに、初めてその子を見た時の気持ちを思い出していました。
しかし、ハッと気が付きました。もうずいぶん長くここにいるのに、あの子は来ない。しまった、本当はここで空を見上げたいのに、先に人がいるからと遠慮して来られないに違いない。それに気付いた私は慌ててその場を立ち去りましたが、ついにその日、その子は現れなかったようでした。せっかくの梅雨の晴れ間の貴重な日にあの子の楽しみを邪魔してしまったと、私は激しく後悔しました。翌日からはずっと曇りか雨でした。夏が来るまで、私のその後悔は続きました。
やっと梅雨が明けた下校の時、その子の姿が例の場所にありました。私はしばらくその様子を見ていましたが、安心して空を眺めてくれているようなので、ほっとして校門に向かおうとしました。すると、なんとその子が私を呼んでいるようなのです。あたりを見回してみましたが、付近にいるのは私一人。「俺?」と自分を指さすジェスチャーをすると、「そうだよー、遠慮しないでここに来てよー」みたいなことを言っています。ダッシュ!!


ハァハァハァ
ごめんね、ここ、あなたのお気に入りでしょう、私に遠慮して帰ろうとしてたんでしょ
え?
私知ってるよ、あなたがここで空を見てたこと
あ、あの時は邪魔してごめん
これからは私も遠慮しない、だからあなたも私がいても遠慮しないでここに来て
うん、わかった


そんな言葉を交わして、私達は空を見上げました。明日も晴れるといいねと言い合いながら別れましたが、あいにくそれから終業式までの間、雲の多い日が続いていました。
そして夏休み。私は自転車を走らせていました。そうしたら、庭先で朝顔の花を摘んでいるその子に出会ったんです。
それから、こちらに書かせて頂いたようなことがあって、
http://q.hatena.ne.jp/1255582326/236816/#i236816
私の初恋らしきものは、あっけなく終わりました。


秋、例の場所に立って空を見上げました。あの子もきっと新しい町で、またここと同じような場所を見つけて空を見上げているに違いないと思いました。