イエ・ルポ 2

「郷土の民話」by id:watena


今住んでいる所の民話はまだちょっと調べていませんが、以前住んでいた場所には、こんな民話がありました。登場するのは、おじいさんとおばあさん、そしてタヌキです。


ある日、おばあさんはご馳走作りに張り切りすぎて、晩ご飯を作りすぎてしまいました。そこで、裏のタヌキにお裾分けと、残り物をお皿に乗せて外に出しておきました。
そんなことがきっかけで、おじいさんとおばあさんは、毎日のようにタヌキたちへのお裾分けをするようになりました。しばらくの間は恐がって一匹も寄りつきませんでしたが、しだいにたくさんのタヌキたちがやってくるようになりました。おじいさんとおばあさんは、中でもお腹の大きなメスだぬきと、そのつがいのオスだぬきに注目していました。
「いつ子ダヌキが生まれるんですかねぇ」
「楽しみだねぇ」
しかしある夜、つがいのオスだぬきだけがやって来ました。様子が変です。お裾分けをその場で食べようとせず、口にくわえて運んでいきました。
「変ですよ」
「変だねぇ」
「私、後をつけてみますから」
おばあさんが後をつけていくと、タヌキの巣穴がありました。もしや子供が生まれたのかと、そーっと中を覗いてみると…。とんでもない。中ではメスだぬきが脚から血を流して苦しんでいました。
大変だ!おばあさんは慌てておじいさんを呼びに走りました。山仕事になれているおじいさんは、こういう傷の手当てにもなれているのです。おじいさんの手当てのお陰で、メスだぬきは命を取り留めました。その後メスだぬきは無事出産。可愛い子ダヌキたちに恵まれました。
ダヌキたちが大きくなってくる頃、おじいさんとおばあさんに不思議なことが起こるようになりました。おばあさんが水を汲もうと思えばもう瓶の中に水が一杯だし、おじいさんが薪を割ろうと思えば、いつの間にか割ってあります。不思議なこともあるもんだと思っていましたが、ある時発見しました。タヌキたちの後ろ姿を。おじいさんとおばあさんは、いつものお裾分けを、さらにどっさり美味しい物にしたのは言うまでもありません。
こうしておじいさんとおばあさん、そしてタヌキたちは、つかず離れず、お互いがお互いを驚かさない距離は保ちつつも、いつまでも仲良く幸せに暮らしたということです。


と、これはどこの民話だと思いますか?
なんと東京杉並区、中央線阿佐ヶ谷駅近辺に伝わるお話なんです。東京にも、こんな自然豊かな暮らしがあったんですね。
実は今も杉並近辺には少なくないタヌキが生息しています。残念ながらそれは交通事故による死体の回収で確認されているという痛ましい現状がありますが…。
こういう郷土の民話は、人が自然と共に暮らしていた頃の大切な記録でもあります。そういう民話と一緒に、残り少ない貴重な自然を次の世代に伝えていきたいと思います。
民話には語り部が、自然には守り手が必要です。昔はどちらも間に合ってますと言いたいくらいだったと思いますが、今は違います。民話と自然を伝えて行くには、どちらも努力が必要な時代です。私もその一翼を担える人になりたいと思います。