吟醸香を味わう」by id:TomCat


吟醸酒とか、大吟醸などと呼ばれる日本酒があります。これは「吟醸造り」と呼ばれる作り方、すなわち特有の酵母と製法によって醸される酒のことで、国税庁のサイトでは次のように説明されています。

吟醸造りとは、特別に吟味して醸造することをいい、伝統的には、よりよく精米した白米を低温でゆっくり発酵させ、かすの割合を高くして、特有な芳香(吟香)を有するように醸造することをいいます。
吟醸酒は、吟醸造り専用の優良酵母、原料米の処理、発酵の管理からびん詰め・出荷に至るまでの高度に完成された吟醸造り技術の開発・普及により商品化が可能になったものです。
http://www.nta.go.jp/sapporo/shiraberu/sake/02a.htm


この「吟醸造り専用の優良酵母」は、発酵の段階で独特の香り、いわゆる吟醸香を生み出します。この香りはまるで果物のような爽やかな香りで、吟醸酒を味わうと、それまで日本酒に対して、甘ったるい、ベタつく感じ、匂いを嗅いだだけで悪酔いしそうな感じ、といった悪印象を持っていた人が、一転して日本酒ファンになってしまうことも少なくありません。


口に含むと泡雪のような軽やかさ。スッと喉を通った後には鼻腔の奥まで広がっていく爽やかな香り。そんな吟醸酒を楽しむためには、肴選びが欠かせません。


肴には、安酒特有の嫌味を誤魔化すために口に運ぶ、いわば口直しといった役割を担う物も多々あります。そういう肴はたいてい濃い味の物が多いのですが、それではせっかくの吟醸酒の良さが台無しです。ワインが料理を選ぶように、吟醸酒も肴を選ぶのです。


私がよくやるのは、蕎麦。良い蕎麦を茹でてキュッと冷水で締め、笊に盛ります。ただそれだけ。つゆも刻み海苔もありません。酒、酒、酒、蕎麦、しばし空白の時間、といったローテーションで、ただ飲んでいるだけだと口寂しくなるのを蕎麦で埋める、そんな飲み方をします。


酢味噌も意外に吟醸酒と良く合います。春なら山ウドの酢味噌和え。これで一杯はたまりません。


吟醸酒は冷やのまま呑む酒ですから、今の季節だと、肴には何か温かいものが欲しくなるかもしれません。そんな時には、真鯛の兜の酒蒸しなどがお勧めです。


◆材料
* 鯛の頭 1匹分
* ダシ昆布 10cm
* 酒 大さじ2
* 薬味
o あさつきの小口切り
o もじみろし
o スダチ
o 醤油 など

◆作り方
まず鯛の頭のウロコを取ります。エラも取り除き、流水でよく洗ってください。これを丁寧にやれば、臭みのない美味しい酒蒸しが作れます。


深めの皿にダシ昆布を敷き、鯛を乗せて酒を振り掛け、15分ほど置いてください。


蒸気のあがった蒸し器に鯛の乗った皿を入れ、鍋蓋から水滴が落ちないように布巾を被せて蓋を閉め、15分くらい蒸してください。これで出来上がり。簡単でしょ?


あとは適宜薬味と共に食べるだけです。普通の切り身で作ってもいいですけど(切り身の場合は蒸し時間は半分くらいでOKです)、兜を使うとさらに味わい深い酒蒸しが作れます。


と、こんな肴でシンプルに、吟醸香を味わうという日本酒の楽しみ方。良い吟醸酒が手に入ったら、ぜひ試してみてください。きっと日本酒に対する考え方が変わります。そして、酔うために飲むのとは違う、味わうために飲むというお酒の楽しみ方の扉が開かれると思います。


どんな料理も、満腹の所に詰め込んだら、美味しくは感じませんよね。お酒も同じです。どんなに良いお酒だって、酔ってしまったら、せっかくの味も香りも無いに等しいものになってしまいます。そういう飲み方じゃもったいない。馥郁たる味と香り、そして風情を楽しむのが日本のお酒です。良い肴と共に、ゆっくりじっくり、酔う直前の微妙な境界を楽しみつつ味わっていってみてください。


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