「火恋し」by id:CandyPot


秋が深まって、朝晩は涼しさを通り越して寒さを感じるようになってきましたね。こんな季節の季語の一つが「火恋し」です。
引っ越して間がないころ。私は家の近所なのに迷子になりました。どこかで曲がる道を間違えてしまったみたいなんです。新興住宅地の道はどれも同じように見えて、引き返してみても、どこで道を間違えたのかわかりません。秋の夕暮れは日の落ちるのが早く、あっという間に真っ暗になってしまいました。日が落ちると急に寒くなってきて、私は泣きたくなってしまいました。いえ、もう泣いていました。
あちこちうろうろ歩き回って、やっと見覚えのある看板を発見。それを頼りに、どうにか家に帰り着きました。迷子になって泣いていたなんてばれると恥ずかしいですから、玄関でキュッキュッと涙を拭いて、元気いっぱいの声を張り上げて「ただいまーっ」。
台所では夕食の支度が始まっていて、コンロの上でお鍋がコトコト。おいしそうなにおいがしていました。そのふんわりとした温かさの幸せなこと。さっきまでの不安が全部吹き飛んで、お母さんに抱かれている赤ちゃんのような安心感に包まれました。火にも色々ありますが、私がこの季節で一番恋しくなるのは、台所の火です。その暖かさは、母に抱かれて子供が感じる暖かさに似ています。


帰り道 火恋し母の 胸恋し


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