「身につけておきたい伝統の作法・座布団編」by id:TomCat


まず座布団の歴史を、ざっと見ていくことにしましょう。座布団の発祥は鎌倉時代と言われますが、当時のそれは布団ではなく、小さな正方形の畳のような物でした。これが後にイグサや藁を渦巻き状に編んだ円座に変わり、
例→ http://www5d.biglobe.ne.jp/~ooya-t/igusa%20enza.htm
現代の綿入りの布団形式になったのは、江戸時代中期頃と言われています。


こんなふうに、高貴な人が座る特別な場所、というニュアンスが濃厚なものから発祥しているのが座布団ですから、そこには独特の作法が存在します。


まず座る時の作法ですが、座布団を足で踏んで立つことは、不作法として嫌われます。というか、これは見た目もスマートではありませんね。そこで座布団に座る時は、まずいったん、座布団の下座側斜め後ろに正座するんです。この時、爪先は立てておいてください。つまり、仮にそこに座っている、という状態ですね。客として訪れた時は、座布団を勧められるまで、その状態で待機します。基本的に、挨拶もこの段階で済ませます。


上座下座については、一般的に床の間があればその方向が上座、出入り口に近い側が下座ということになりますが、要は部屋に入ったら座布団の手前側斜め後ろで待機、と考えればOKです。


座布団を勧められたら、体を座布団方向に45度向きを変え、両手を握って座布団の上に置き、腕の力で膝を浮かせて、クイッと体を座布団の中央まで移動させてください。この時、よいしょと膝歩きをしてしまうと、和服の場合、裾が乱れますね。これが、手を使って進み出る理由です。座る位置が整ったら正面を向き、姿勢を正して両手を脚の上に揃えて完了です。座布団から下りる時も、基本的にこの動きの逆をやってください。斜め後ろに体をずらし、完全に下りきってから正面を向きます。


こういう所作は、ちょっとした和食のお店に行った時などにも必要になるものですから、日頃から練習して、スマートに動けるようにしておくといいですね。なお、スペースの関係で、必ずしも座布団の下座側斜め後ろから始められるとは限りませんから、座布団の後ろから真っ直ぐ前に向かって体を進めていくなどの所作も練習して、臨機応変に使い分けられるようにしてください。むしろ宴会などの席では、座布団の後ろバージョンの方が多くなるかもしれませんね。


なお、客として訪れた場合、基本的には、客が座布団の位置を動かしてはいけません。これは接待する側の不備を指摘する行為となり、大変失礼なこととみなされます。料理屋などではそこまで堅苦しいことは無用ですが、自分が招かれた立場である時は、あまりあからさまに座布団の位置を動かすと、招待者の面目を潰すことになりかねないので注意します。


さて、座布団を勧める側の場合ですが、まずは座る人のことをよく考えたセッティング。これが第一ですよね。作法に則ってスムーズに動くことが出来、そして座った後も快適に過ごせる位置関係。こういう思いやりが基本になってきます。


座布団の前後や裏表については様々な所で説明されていますから、大抵の方がご存じだと思いますが、座布団は正方形ではなく、左右より前後の方が一寸程度長く作られているんです。したがって、座布団の向きを間違えると、ちょっと具合が良くありません。というわけで、縫い目のない辺が前という決まり事は、しっかり守ってセッティングしてくださいね。


また、裏表については、もちろん中央に房が出ている方が表ですね。座布団によってはこういう糸飾りが付いていない物もありますが、そういう座布団は、裏表を気にせず使うカジュアルな普段使い、という位置づけです。お客様にお勧めする座布団としては適さないと考えられる場合が多いので、おもてなし用にはそのへんを意識した用意があるといいですね。


さて、こんな座布団の作法のどこが「FORTUNE」なのかですが、私は、こういう伝統の文化を次の世代につないでいくことが、日本人という民族の「FORTUNE」になると思うんです。だからその中継点となる私たちとしては、伝統に込められた心を、しっかり受け取っていくことが大切ですね。


座布団の作法は日本独特です。そこには、招く側と招かれる側双方がお互いを尊び合う心や、格式をもって場の価値を高めていく心など、様々な心がこめられていると思います。また伝統にかなった動きは、ひとつの舞いを見ているような思いさえいだかせる美しさがあります。


堅苦しくすることはありません。知性としての伝統の所作の習熟。かっこよさとしての作法の習得。そういう考え方でいいと思います。とりあえず座布団を出して、ためしにやってみてください。その経験がいつかどこかで役に立つかもしれません。


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