イエ・ルポ 2

「無線のライバル」by id:momokuri3


一時私はかなりアマチュア無線に凝っていました。同じクラスにやはり無線好きな友がいて、休み時間はいつも無線の話で盛り上がっていました。お互い無線で会話が出来ますから、家に帰ってからも無線機を前に、あれこれと無駄話に花を咲かせました。
そんな仲の良い友人同士でしたが、私たちはライバルでもありました。当時私たちは4級という一番下の無線の免許しか持っていなかったので、どちらが先に3級になるかを私たちは競っていたんです。最近は国家試験の内容が簡略化され、3級にはトンツーのモールスの試験が無くなったようですが、私たちのころはまだモールスの試験がありました。私はこのモールスが苦手で、なかなか習得が進みませんでしたが、友人はもう当時の2級レベルのモールスも楽々受信できるくらいに上達しています。私も必死で練習して、一緒に受験申請書を出し、一緒に受験に臨みました。友人は2級相当の実力、私はぎりぎり3級の実力で、どうにか二人一緒に合格通知を手にすることが出来ました。
しかし無線の楽しみの一つに、無線機の自作があります。こちらでは私も負けてはいませんでした。雑誌の製作記事を参考に二人で同じ無線機の自作を手がけたことがありました。二人で秋葉にパーツを買いに出かけ、二人同時に製作に取りかかりましたが、友人の方はいくら調整しても、なかなか目標とする性能が引き出せません。電子機器には実装技術のようなものがあって、ちょっとした線の引き回し方ひとつで、ずいぶん動作が変わってしまうんです。国家試験では後れを取りましたが、こういう職人技系なら負けません。頼む見てくれと呼ばれて行って、ちょちょいといじってみごと問題解決。ちょっと鼻高々な私でした(やなやつw)。
こんなふうにそれぞれの得意分野で楽しく競い合ってきた私たちでしたが、今はどちらも無線からは遠ざかってしまいました。これも時代の流れなのでしょうか。
しかし友人はあれからもずっと無線の世界に向けた探求心を絶やさず、大学もそれ系に進み、大学院にも進んで、なんと博士号まで手にしています。それでも一緒に飲むと、君はすごいよ、僕は科学の方に進んだ、でも技術は君の方がずっと上だ、俺たちは今も二人揃って一人前の科学技術コンビだな、なんて言ってくれます。コノヤロウお世辞がうまくなりやがって。若き日の好敵手はいつまでたっても好敵手ですね。