「履き物が壊れてくれたお陰で出会えた幻の白い花と楽しいひととき」
by id:TinkerBell


その日履いていたのはミュールでした。
男性の方にはちょっと馴染みがない名称かもしれませんが、
つっかけサンダルをお洒落にしたようなもの、と考えていただければOKです。
履き物としての機能よりデザインが優先されているので、
他の履き物に比べると、いかにも弱々しい作りです。


その日私は、道に迷っていました。
いつの間にか表通りを外れて、わけのわからない所に迷い込んでいました。
住宅地ですが、道を聞こうにも人通りがありません。
うろうろ歩き回っているうちに足が痛くなってきてしまいました。
あ〜ん、ミュールなんか履いてくるんじゃなかった、と思ったとたん、壊れました、ミュール。


あ、ごめん、ミュールは悪くないのに、ミュールのお陰で歩けているのに、私ったらなんということを。
壊れてしまったミュールに申し訳なくて、壊れてしまったミュールがかわいそうで、
私は泣きたくなってしまいました。
それでもしばらくうろうろしていましたが、ついに歩けなくなって、道端の縁石のような物に座りました。


ふと見ると、道向こうのお宅の庭に白い花が見えました。
サギソウ?前にイエはてなで読んだ、野生の物は絶滅しかかっているという、幻の花?
駆け寄ってみてみると、たしかに鳥が翼を広げたような形の花でした。


私が見入っていると、その家の人が気付いて出てきてくれました。
そして道を教えてくれて、おまけにこれあげるわよと、サンダルまで頂いてしまいました。


それからしばし花談義。
栽培用のサギソウはお店で買えるけど、病気に弱い花なので、一年で枯らしてしまう人が多いこと。
サギソウは蝶ではなく蛾が花粉を運ぶので、夜になると花の香りが強くなること。
昔は東京にもたくさんのサギソウが咲いていたこと。
昔、あらぬ嫌疑を掛けられた常盤御前という人が、
自害して身の潔白を証明しようと飼っていた白鷺の足に遺書をくくり付け飛ばしたものの、
白鷺は途中で力尽きて、多摩川のほとりでサギソウになってしまったという言い伝えがあること。
などなど、色んなお話を聞かせてもらいました。


ミュールが壊れてくれたお陰でサギソウの花と出会い、そして思わぬ楽しいひとときを過ごすことができました。
植物好きには、こういう植物が好きな人と出会い、心を通わせることが、何より嬉しいんです。
この時履いていたミュールは捨てずに、人の優しさ、温かさに触れた記念として、今でも大切に保存してあります。


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