イエ・ルポ 2

「きびだんごで桃太郎セット」by id:Oregano


幼児期の私は、なぜか桃太郎にハマっていました。猿と犬とキジを連れて歩いたらどんなに楽しいだろうと、それが憧れでした。このすてきな仲間たちを集めるには、どうしても必要なアイテムがあります。それはきびだんごです。私は母に、きびだんごがほしいとねだりました。しかし私はきびだんごがどういう物かを知りません。母も知らないようでした。
母は、なんと図書館まで行って調べてくれました。私も一緒について行きました。そこで岡山の名物「吉備団子」について書かれた本が見つかりました。吉備団子とは、基本的に求肥を団子状にした物です。昔は黍で作られたのかもしれませんが、母は写真を見る限り明らかに餅米粉だけで作られていると思ったそうです。Wikipediaを見ると

最近の製品は黍の割合がかなり低く、使用していない商品もある。


と書かれていますから、その時の母の判断は正解だったようです。
帰りにスーパーに寄って、白玉粉を買ってくれました。そして和菓子用のお砂糖である和三盆と水飴。私はただ帰りにスーパーに寄った記憶しかありませんでしたが、母に聞いてみたら、そういう買い物をしたということでした。私はこれがきびだんごになるのかと大喜びで、いいというのに自分で持つと言い張って、スーパーの袋を抱えて意気揚々と歩いていたそうです。まだお団子になっていないのに、今にも猿や犬やキジが出てきそうに思えました。
家に帰ると早速きびだんご作りに取りかかってくれました。求肥の作り方には何種類かあるらしいのですが、母は、桃太郎のきびだんごは日持ちするお団子だったに違いないからと、最も食べ頃の状態が長く保てる蒸し練りという方法で作ってくれたそうです。これはまず白玉粉に水を加えて練り、一度蒸してから、砂糖と水飴を加えてさらに練り上げていく方法です。
こうして作られた求肥の生地を取って丸め、そのままではベタベタしますから、普通はここで餅取り粉でもまぶすところでしょうが、母は栄養価を高めようと、きな粉をまぶしてくれました。桃太郎は強い男の子ですから、優良なタンパク質が欠かせないというわけです。
できあがったきびだんごは、それは見事な物でした。私は、これなら誰が見てもきびだんごと言うに違いないと思いました。さっそく試食してみました。それまで食べてきたお菓子に比べると地味な味でしたが、きなこがおいしくて、それなりにいけるという印象でした。
母が、白い布を細長く折って鉢巻きにして、おでこの所に桃の絵を書いた紙を貼ってくれました。鏡を見ると、どこから見ても桃太郎です(笑)。私は犬のぬいぐるみと、干支の猿の置物と、キジに関する物は見当たらなかったので、鳥なら何でもいいやということだったのでしょう、なんとお風呂アヒルを持ってきてテーブルに並べ、このきな粉味のきびだんごを大喜びで食べていたそうです。
後日またこのお団子を作ってもらい、小さなお弁当箱に入れて風呂敷に包んで腰に結びつけてもらって、お散歩に行ったこともありました。犬とすれ違うと、一つ下さいお供しますと言われないかとドキドキしていたのを覚えています。
お団子は公園で食べました。きびだんごで強くなった気がして、滑り台の上で「うぉー」と叫んでいたような気がします。これでは桃太郎ではなく怪獣ですね(笑)。
懐かしくなって、即席にご飯をお団子大に丸めて、それにお砂糖を入れたきな粉をまぶして食べてみました。優しい甘さと香ばしさが郷愁を誘いました。