「小さな火の楽しみ、香を聞く」by id:Cocoa


めらめらと燃える炎は「動」ですが、お香の所作はあくまで「静」。使う火も、静かに燃える炭火です。
お香には手軽に楽しめるお線香などもありますが、やはりナチュラルな香木をそのまま焚く良さは格別です。香木を焚く一番簡単な方法は、専用に作られた香炭を使う方法でしょう。お香の専門店に行くと、炭を粉末にして平たく固めたような物が売られています。折り取って使えるようになっていて、ライターで簡単に火が付きます。1センチ角くらいに折り取って、ピンセットか何かでつまんで火を付け、お線香立てのような灰を敷き詰めた器の上に置き、全体に火が回ったら薄く灰をまぶして、その上に刻み香木を乗せて焚いていきます。
本格的には、炭の上に銀葉という雲母板を乗せ、その上に香木の小片を置いて香らせます。一気に燃やしてしまうのではなく、ゆるやかに熱して香りを立ち上らせるような焚き方です。昔は「馬尾蚊足」と言い、馬のしっぽの毛や蚊の足のような細い香木をごく少量用いるのが良しとされていたそうですから、強い火で燃やしてしまっては台無しだったのですね。
極めて上質の香木をごく少量香らせて風情を楽しむこのやり方なら、いいお香は高いからとか、お香って変な臭いだとか、いくらいい香りでも部屋に残ってしまうと変な臭いになるからといって香りの楽しみを避けていた人にもぴったりだと思います。
小さな小さな火。1平方センチにも満たないような炭の小片が、炎も上げずに燃えていく本当に小さな火。でも、そんなたおやかな火だからこそ楽しめる、デリケートな香りの世界があるのです。
日本人はその豊かな感性を香りで磨き、様々な香りの中に四季の風情を見いだし、千年余にわたって日本独特の香りの楽しみを作り伝えてきました。皆さんも機会がありましたらぜひ、お香の道具を揃えて楽しんでみてください。特にナチュラルな香木には、加工されたお香にはない良さがあると思います。


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