イエ・ルポ 2

「青いラジカセ」by id:MINT


古い古いラジカセがあります。父が若いころに愛用していた物らしいのです。それを弟が譲り受けて、ラジオとして使っていました。小さなラジカセですし、モノラルですし、音もいいとは言えません。でも、メタリックな深い青のボディがとてもいい感じで、私もそのラジカセが大好きでした。うちはけっこう姉弟仲が良かったので、よく弟の部屋に遊びに行って、それでラジオを聞いていました。
しかしある時、私と弟は口をきかなくなりました。弟が勝手に私の部屋から大切な本を持ち出して、こともあろうにそれを紛失してしまったのです。大切な本だったので、私は怒りまくって、見つけてくるまで帰ってくるなと、弟を家から追い出してしまいました。弟はその日立ち寄った場所をしらみつぶしに探したようですが、どうしてもみつからないと、しょんぼりと帰ってきました。その姿を見て、もういいよと言おうとしましたが、あんな本一冊誰も気に留めないから見つかるわけないよ、みたいなことを言われてまた腹が立ってしまって、結局それから三日間、私たちは口をきかなくなっていました。
でも、こんなんじゃいけない、もう本なんてどうでもいい、早く弟と仲直りしたいと思ってはいたんです。ところが、あれから弟はめちゃくちゃ帰りが遅く、仲直りしようにも時間が合わなくなってしまっていました。
深夜、部屋の外でコトリと音がしたのでドアを開けると、青いラジカセが置いてありました。しばらく何の意味だかわからずにいましたが、よく見ると、中にカセットが入っていました。今どきカセットなんて使ったことないですから、一体なんだろうと再生してみると、なんと弟の声で、お姉ちゃんごめん、がんばって探しているけど、どうしても見つからない、見つかるまで探すから待っててよ、みたいな内容が吹き込まれていたんです。毎日帰りが遅かったのは、まだ本を探し回っていたからなんだとわかり、私はラジカセを持って弟の部屋に飛び込みました。そして、本なんてもういいからと泣いてしまいました。弟も、姉ちゃんごめんと泣いてくれて、私たちはいつもの仲良し姉弟に戻りました。
ところが後日父にその話をすると、あれ、おかしいな、あのラジカセ、カセットの方は壊れていたはずなんだが、なんて言うんです。えぇーっ?と、弟と二人で試してみると、本当にモーターが動きません。でもあの晩は、たしかに使えていたんです。録音もできましたし、再生もできました。これって、どういうこと?もしかして、ラジカセさんが、私たち姉弟の仲直りに力を貸してくれたのでしょうか。とっても不思議な出来事でした。
それからもう、ずいぶん歳月が過ぎましたが、青いラジカセは今でも現役で、弟の部屋でラジオとして使われています。私も時々、弟の部屋に行って、そのラジカセでラジオを聞いて過ごします。二人何も言いませんが、きっと弟も、あの時のことを思い出していると思います。ラジオの何気ないおしゃべりに耳を傾けながら、家族って、姉弟っていいなぁ、なんて思います。そんな時間が、何とも言えず幸せです。