イエ・ルポ 2

「家を増築した時」by id:momokuri3


私の家は元はとても手狭な作りでした。それを増築しようという計画が持ち上がりましたが、それは大変な資金のかかることでした。当時私はまだ子どもでしたのでその時の具体的な苦労の中身は知らされませんでしたが、父も母もほぼ新築のマイホームを目指すのと同じくらいの努力でお金を貯めていたと思います。
私には、小遣いくらい世間並みに保証するよ、勉強に使いたい本は別枠で買ってやるよと言ってもらいましたが、父母は子どもに見せない所で、節約に節約を重ねていました。
そしていよいよ工事に取りかかる直前まで来ました。父と母は毎晩のように方眼紙を取り出しては、ああでもないこうでもないと間取りの検討をしていました。父はドアノブから照明器具に至るまでのカタログを色々集めまくってきましたし、母は古本屋から一年分の住宅雑誌を買い込んできて、生活の動線がどうの、理想のキッチンはこうのと研究に余念がありませんでした。
そんな下準備の末に取りかかった増築工事。わが家の工事は残す部分に住みながら新たな部分を継ぎ足していくやり方で行われましたので、住んでいる者の目から、工事の様子が手に取るようにわかります。父は毎晩仕事が終わって帰ってくると、工事中の部分を丹念に見て回っていました。
そんな強い思い入れの後に迎えた完成の日。真新しい増築部分の1階に作られた居間で、家族揃っての完成記念パーティーが行われました。寿司の出前が取られましたが、なんと父と私の分は二人前です。
「一世一代の家作りの記念日だから、普段やらないことをして思い出に刻みたいんだよ」
とはその時の父の弁です。
寿司が届き、みんなでおめでとうと乾杯して食べ始めましたが、まず最初に母が泣き出しました。続いて父が目をつぶって静かに涙を流しました。夢を形にすることが出来た感激。途方もない計画をやり遂げた喜び。そんな感情が、子どもだった私にも伝わってきました。この家には隅々にまで父と母の願いが反映されているんだ、毎晩方眼紙に向かって夢を語り合っていた二人の心の結晶がこの家なんだと思うと、私も熱い物が込み上げてきました。あとはみんな泣いてしまって、とても食事どころではありませんでした。もう感激で胸がいっぱいで、二人前もの寿司が喉を通る状態ではありません。全て食べ尽くすまでに何時間かかったでしょうか。うれし泣きというと、まずこの日のことが思い出されます。