イエ・ルポ 2

「退院のその日に…」by id:TinkerBell


私はしばらく入院生活を送っていました。
ちょっとややこしい病気で、もしかしたらずっと入院したままかもしれないと思われていたんです。
だからその時、父母はとても辛い思いをしていたと思います。
母なんか、こらえきれなくて私の前で泣いちゃって…。
私は自分の病気のことより、そんなふうに両親の重荷になってしまっていることの方が辛かったです。
早く治って元気になりたいというより、治らないなら治らないでもいいから、
父母の負担になりたくないというのがその当時の私の願いでした。
だから、このまま治る見込みがないのならいっそのこと…、
みたいに口を滑らせてしまったことがあるんです。
その時は、すごく激しく母に泣かれてしまいました。
私も、そういう考え方こそ両親の負担になってしまうんだと気付かされて、
それからは、この父母のためにも何としても元気になりたいと思う気持ちに切り替えました。
そしてそれから、ちょっと長い入院生活が続きましたが、
治療の甲斐あって、無事退院できる日を迎えました。
その日は父も仕事を早く切り上げて帰ってきてくれました。
家に入ると、夢にまで見た家の姿と、懐かしい家の匂い。
何もかも、入院する前と同じです。
父も母も私が入院している間、家の様子を変えないようにと、
それこそスリッパの置き方一つにまで気を配っていてくれたそうです。
そしてキッチンからはシチューの香り。
そう、入院前夜の食事が、クリームシチューだったんです。
さらにお帰りと家で待ってくれていた父が着ていたのは、入院した日と同じ服。
もう季節外れなのに…、です。
こんなふうに、何もかも入院前と同じにして迎えたいという、
父と母の愛情いっぱいの心遣いに感激して、私は泣きました。
もう、涙が止まりませんでした。
退院できた喜びというより、この父と母の所に帰ってこられた喜び。
人って本当に感激すると涙が出るんだって、自分で自分にびっくりするくらい泣きました。
この日のことを思い出すと、また涙が出てしまいそうになります。