「友だちと見上げた夜空のこと」by id:Oregano


まだ小学生の時のことです。たいして親しくないクラスのやつから、夏休みになったら星を見ないかと誘われました。流星群が来るから流れ星を一緒に見ようというのです。一緒に図書室に行って星の本を見ながら、この流星群だよ、これは一年のうちでもたくさん星が流れるので有名なんだ、ぼくは去年見た、きっと今年もたくさん見られるぞと熱っぽく語っていました。なぜ普段そんなに親しくない私をと思いましたが、面白そうなのでOKしました。そいつは、直前になったら電話するからと言っていました。


夏休みになって、電話がかかってきました。来週がちょうど一番たくさん星が流れる日だからその日に見よう、家の人にOKをもらってくれと言っています。私はいったん電話を切って、近くにいた父に了解を求めました。さすがに夜遅くに小学生だけというのは OKしてもらえませんでしたが、近くまで車で送ってやる、見終わるまで車で待っていてやるという半父兄同伴を条件にOKがもらえました。


当日、父の車で約束をした場所まで行きました。そこは広い公園で、その一角に小高くなった小さな丘のような所があります。私が行くと、そいつはもう来て待っていました。私がおーいと声をかけると、うれしそうに手を振ってくれました。それから二人で夜空を見上げました。そいつは星のことをとてもよく知っていて、あれが夏の大三角だとか、あれが何座だとか色々教えてくれました。流れ星が流れました。「見た?」「見えた」「何か願い事した?」「してるひまなかった」と二人で大騒ぎです。それからは星が流れるごとに二人で興奮しまくりました。


しばらくしてそろそろ父と約束した帰りの時間が近付いてきたのでそのことを言うと、そいつは神妙になって、いい思い出ができた、と言いました。え?と聞き返すと、実はそいつは二学期から転校が決まっていて、もうすでに引っ越した後だと言うんです。ほら向こうの駐車場にうちのお父さんの車が止まってる、今日は君に会いに引っ越し先から車で乗せてきてもらったんだよと。あまり親しくなかったが、私とずっと仲良くなりたいと思っていた、最後にいい思い出ができたよと言ってくれました。私は何と返事をしていいかわからず、両手を握って半べそをかいていました。


最後にもう一つ流れ星を見たらさよならしようということになって、二人で夜空を見上げました。私は涙でよく空が見えませんでした。公園の出口まで一緒に行き、それじゃあと別れました。そいつは、最後の流れ星に君とのことをお願いした、手紙を書くよと言ってくれました。


父の車に行くと、何お前べそかいてるんだと言われましたが、ただあったことを話しただけでは今の自分の気持ちを表現できないと思い、黙っていました。父はちょっと心配していたみたいでした。
しばらくしてそいつから新しい住所の書かれた残暑見舞いが届きました。父にそれを見せて、実はあの時これこれこうだったんだよと話すと、離れているがその子は親友だなと言ってくれました。親友への特別な気持ちを込めて返事を書きました。夏になるとどうしても夜空が見たくなるのは、そいつの思い出があるからです。


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